剣道がオリンピック競技になる可能性は?
とある著名人が剣道のオリンピック競技化についてブログで述べたことがニュースとなって配信されました。
剣道 – aska_burnishstone’s diary
剣道 2 – aska_burnishstone’s diary
この著名人に対しましては、
「執行猶予中の身であるうちは言動を慎まれてはいかが?」
と言いたいものですが、リオ・オリンピックが盛り上がっている中、デイリースポーツがニュース配信したことで反響を呼んだ様子ですので、旧ブログ記事を焼き直しつつ、見解と持論を述べてみたいと思います。
まず、オリンピック競技となるには以下のような段階を踏むことになります。(ざっくりですけど A^^;)
↓
○スポーツアコード(旧称・GAISF)に加盟
↓
○ワールドゲームズ実施競技
↓
○IOC承認国際競技団体連合(ARISF:Association of Recognised International Sports Federations)に加盟
↓
○オリンピック競技
おおむね以上の5段階を経てオリンピック競技になるわけですが、剣道は2006年4月にスポーツアコード(当時はGAISF)への加盟が承認されたところ。まだ2段階目。それもつい10年前のことなのです。
このGAISF(現・スポーツアコード)加盟の意義を、当時の全剣連会長である武安義光先生は以下のように述べてます。
GAISF加盟の意義
4月に行われたGAISF(国際競技団体連合)総会で、国際剣道連盟(IKF)の加盟申請が承認されたことは先月号でお知らせした。これは国際剣連の活動として行ったものですが、その意味について、全剣連関係者に理解して頂くため、ポイントを記します。
(1)GAISFは国際的広がりを持つ101の競技団体が加盟しているIOC関係団体として国際的に認められた権威ある団体であること。
(2)国際剣連が加盟したことは、「剣道」の名が国際競技界において国際的に公認されたことになり、例えば剣道に紛らわしい泡沫団体の加盟を阻止する予防効果が大きいこと。
(3)剣道が国際的に市民権を得たことにより、剣道の後進国が政府から援助を受け易くなる。加盟を要望する剣連の期待に応えた。
(4)加盟団体にはオリンピック種目もあり、GAISFはIOC関係の有力団体であるが、剣道のオリンピック競技への加盟とは直接関係はない。
(5)加盟するための基準として世界大会の開催が必要であるが、現在の世界大会で十分であること。
以上、寄稿「まど」平成18年6月号より引用
ちょっと固い文章なので噛み砕いてしまおう。A^^;
まず背景として、ヨーロッパ諸国の剣道連盟を中心に、GAISFに加盟していないと体育館ひとつ借りるのも容易ではないという切実な事情がありました。
※上記(1)および(3)の部分
それでも日本主導の国際剣道連盟は「剣道は武道であってスポーツではないから」と消極的でしたけれども、コムド系の世界剣道連盟などといった団体が日本の文化性を排除してよりスポーツ化した剣道をもってGAISF加盟を果たし、国際社会における剣道の主導権を握ろうとする動きが現れました。
日本剣道界にとって、これは大いなる危機でした。
もしコムド系団体が先にGAISF加盟を果たしていたら、世界各国の剣道連盟の多くは国際剣道連盟から離脱し、GAISF加盟の団体に移籍していたことでしょう。
そして世界の潮流はその団体の主導による日本の剣道とは似て異なるKENDO(あるいはKUMDO)が世界の主流となってしまい、下手すると日本の剣道が「剣道」と名乗ることすら出来なくなりかねません。
これを阻止するため、剣道を称するいかなる団体より先んじて国際剣道連盟がGAISFに加盟しなければならなかったのです。
※上記(2)の部分
しかし、国際剣道連盟のGAISF加盟は上記のような理由によるものであり、オリンピック種目に採用されることはもちろんのこと、スポーツ競技としての国際普及を推進することは目指してません。
国際剣道連盟はあくまでも武道としての剣道を国際的に普及しようとしています。
※上記(4)および(5)の部分
その保守性の強さゆえに、2005年のGAISF加盟申請では否決されてしまってます。
これを反省し、次回の加盟申請を必ず得るべくロビー活動なども少々して、2006年のGAISF総会にて賛成48、反対15、棄権7で加盟を認められたのでした。
さて、現状についてはこれまでの説明でご理解を頂けたものとしまして、これを前提に、お題の「剣道がオリンピック競技になる可能性は?」について回答します。
実は、オリンピック競技として採用される基準については2003年版のオリンピック憲章に下記のように定められてます。
「オリンピアード競技大会のプログラムに含めることができるのは、男性によっては、4大陸で少なくとも75か国、女性によっては、3大陸で少なくとも40か国で広く行われている競技のみとする。」
(2003年版のオリンピック憲章「52 競技プログラム、競技・種別・種目の承認」より引用)
2004年度版以降のオリンピック憲章では明確な基準の記述が省かれてますが、この基準は現在も適用されているものと思われます。
例えば、2020東京オリンピックの追加種目として採用された空手の場合、空手のIFである世界空手連盟=WKF(World Karate Federation)の加盟国数は150か国であり、上記基準を充分に満たしてます。
では、剣道のIFである国際剣道連盟=FIK(Fédération Internationale de Kendo)の加盟国数はと申しますと、まだ57か国に過ぎないのです。
ちなみに、オリンピック正式種目のうち格闘技系スポーツのIF加盟国数を多い順から並べますと、ボクシング=190、柔道=183、テコンドー=161、レスリング=142、フェンシング=106。
剣道がオリンピック競技となるためには、前述した採用基準にある「75か国」の壁を超えない限りは立候補したところで門前払いされるのがオチであり、本気でオリンピック競技採用を望むのであれば、フェンシングの「106か国」を超えることが目標になります。
つまり、現在のFIK加盟国数=57か国を倍増させねばならないわけですが、これが超難関なのです。
まず、先進国=OECD加盟34カ国には既に剣道は普及しておりますので、発展途上国への普及を図らねばならないわけですが、一般国民の所得が限られている中で、高価で補修も難しい剣道具一式と、剣道の稽古が可能となる板張りの床を調達することは至難の業です。
また、イスラム教が信仰されている国と地域への普及も図らねばなりませんが、異教徒への警戒心が強いイスラム圏において、禅や神道の影響が垣間見える剣道の所作と礼法を理解して頂くこともまた、至難の業と言うほかありません。
前者は経済的な問題ですので、経済的に解決する術が多々あろうかと思いますし、東欧諸国への剣道普及活動のノウハウも活かせるかもしれません。しかし、後者はお互いに相譲れないものがあり、難問中の難問でありましょう。
現状の見解をまとめますと、剣道はオリンピック競技化を検討するほどには国際的に普及しておらず、剣道がオリンピック競技になる可能性はゼロです。
それをわきまえずに「日本のメダル獲得が確実だから」とか「剣道人口増加の起爆剤に」といった内向きの動機で剣道のオリンピック競技化を望むのは、とても恥ずかしいことですよと、とある著名人には申し上げたい。
さて、ここから持論。
柔道は国際化する過程において、空手は諸流派統一ルールの策定過程において競技性を高め、相対的に日本文化色と宗教色を薄めることによって、国際普及を果たしました。
剣道が彼らと同じ道程を歩むならば、遠い将来に剣道がオリンピック競技化することも可能かと思いますが、競技性を高めた剣道、日本文化色と宗教色を薄めた剣道が、果たして剣道と言える代物なのかと考えたとき、柔道や空手以上に骨抜きになるのではないかと危惧してしまうのです。
和装から離れた剣道。
剣の理よりも、物理判定が優先される剣道。
勝者が勝利を誇示し、敗者を顧みることのない剣道。
そんな剣道は「剣道」と呼びたくないものですが、オリンピック競技化した剣道がこのような形になるであろうことは、火を見るより明らかなことです。
オリンピック競技となるために求められる、競技性を高め、文化性を薄めるということは、すなわちそういうこと。得るものより失うものの方が大き過ぎるのです。
ゆえに、あくまでも武道としての剣道の国際的な普及を推進するという国際剣道連盟および全日本剣道連盟の方針を私は支持します。
誰のブログか判らないので
素マジで調べてしまいました…
親御さんは立派な方なようですのに…(悲)
個人的に
オリンピック→本来:アマチュアスポーツの祭典/現実:言わずもがな
世界選手権→スペシャリストの祭典
と思っておりますので、
剣道は世界選手権の参加国が増えてほしいと望むものの
オリンピックには参加しないでほしいと思っております。
【武道】を普及するのは、
難しいし逆にナンセンスな様な気がするんですよね。
【防衛費】を《ひとごろしよさん》とか
いう輩がいる以上、
人類の英知は【武道】を
嗜む領域に達していないという現実がありますからね。
kanimimiさん、コメントありがとうございます♪
>【防衛費】を《ひとごろしよさん》とか
> いう輩がいる以上、
> 人類の英知は【武道】を
> 嗜む領域に達していないという現実がありますからね。
実にそこです。
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