物理判定と裁量判定

物理判定とは、物理的に測ることが可能な事象により判定することを指します。
裁量判定とは、物理的に測ることができない事象を審判員が与えられた裁量の範囲内で判定することを指します。

なお、この「物理判定」および「裁量判定」という言葉は、私がこの記事を書くにあたり便宜的に使用するものであって、一般的な言葉ではないということに御留意を願います。


プロ野球で今季より導入されたコリジョンルール。
審判員は物理判定に徹しているのに対し、球団・選手・監督・コーチ・評論家は裁量判定と認識している、あるいは裁量判定であるべきだとする人も少なくなく、このズレによる混乱がクロスプレーを望むのに得られないという不満に拍車をかけているように思えます。

過去記事でも述べましたが、審判員は守備側がボールを持つ手やグラブ以外の体または体の一部でホームベースへの走路を塞ぐ形となったことをもって、コリジョンを適用しています。

故意か偶然かは問わず、あくまでも物理的に判定しております。
この点は、セの審判員もパの審判員もブレなく運用しておりますから、審判員はよくやっていると評価すべきだと思います。

対して、コリジョン判定に際して抗議や批判を述べる球団・選手・監督・コーチ・評論家は、コリジョンルールそのものの是否はともかくとして、故意か偶然か、危険か危険でないのか、といったことを審判員の裁量に含んで判定すべきというような趣旨を述べがちなのです。

ただ、その一方で審判員が物理判定していることを理解している球団・選手・監督・コーチも概ね半分以上はおり、彼らは野手からのバックホーム送球を三塁線の前で処理しますし、走者はそれを前提に低い姿勢でのスライディングで捕手のタッチをかわしに行きます。


野球は好例になるかと思いますが、裁量判定をなるべく廃して物理判定に徹し、ゲームの流れに支障の出ない範囲において物理判定を機械判定化するというのが、スポーツ全体の潮流であると言えるように思えます。

裁量判定⇒物理判定

  • 危険球判定
  • コリジョン

物理判定⇒機械判定

  • ホームラン等のビデオ判定

陸上の短距離走や水泳競技などは完全に機械判定化されてますよね。
格闘技系スポーツでも、フェンシングなどはかなり機械判定化されてますし、柔道なども一本や技ありの判定がかなり裁量判定から物理判定に移行し、賛否両論ありますがビデオによる機械判定も導入されて数年が経過してます。


さて、その潮流を前提に、剣道試合・審判規則の第12条を見てみましょう。

剣道試合審判規則 第12条

有効打突は、充実した気勢、適正な姿勢をもって、竹刀の打突部で打突部位を刃筋正しく打突し、残心あるものとする。

まず「充実した気勢」「適正な姿勢」「残心」が裁量判定にあたります。
そして「竹刀の打突部で打突部位を刃筋正しく」が物理判定にあたります。
問題は「竹刀の打突部で打突部位を刃筋正しく」の後に続く「打突し」です。

剣道関係者の大多数を含む一般的な感覚では「打突し」を物理判定と認識しているものと思いますが、私は裁量判定だと確信しております。

なぜなら、剣道試合審判規則ならびに細則に「打突」についての定義が明記されていないからです。
ちなみに「竹刀の打突部」については第13条、「打突部位」については第14条、「刃筋正しく」については細則第10条に定義されてます。

高度競技化により有効打突判定がほぼ機械判定化しているフェンシングが対照的な例として最適だと思いますが、フェンシングの場合は「7.50ニュートン以上の力が加わった場合に有効」といった具合になってます。

これに対して剣道の場合は、「打突」に求められる物理的な力の量はもとより、「竹刀の打突部」と「打突部位」の接触が必要であるのか否かさえも定められておらず、その事象が「打突し」たか否かの判定は審判の裁量に任されてます。
これでは物理判定とは言えません。


世の中の潮流に従うならば、真っ先に物理判定化すべきとされる部分であり、機械判定化すべきとの急進的な意見さえも予想されるところですが、私はそれらには賛成しません。

打突そのものの物理的接触や力の強弱よりも、打突機会および打突に至るまでのプロセスが重視されてこその剣道だと思うのです。
極論、日本剣道形の三本目のような、非接触打突も一本と判定できる余地を残しておくためにも、打突は裁量判定であるべきではないでしょうか。

ともあれ、現在の剣道の試合では、全日本剣道連盟剣道試合審判規則ならびに同細則の下で行われる限り、打突は裁量判定されるのです。それを、当たったの当たってないのと物理現象を元に論じても意味はありません。

このような認識であれば、世の中の誤審批判の大多数は消えて無くなるのですが、全日本剣道連盟がYouTubeの公式チャネルに試合動画を載せる度に巻き起こる誤審批判の数々を鑑みますと、私が少数派であることを自覚せざるえませんね。


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