名古屋場所総括

名古屋場所は白鵬が幕内優勝回数を30回の大台に乗せての優勝。

白鵬の優勝自体は拙記事「名古屋場所中盤戦を経て賜杯の行方を占う」で予想したとおりであり、結果そのものは驚くに値しないのですが、ここまで混戦になるとは思いも寄らぬことでした。

まさか千秋楽の時点で白鵬、琴奨菊、豪栄道、高安の4人に優勝の可能性が残されるとは思いませんでした。報道各社には記事を書きやすい名古屋場所終盤戦だったのではないでしょうか?

まず、混戦の下地ですが、終盤に入ってにわかに幕内下位の相撲内容が良くなったことが挙げられます。盛り上げ役は優勝争いを演じた高安を筆頭に、荒鷲、宝富士、妙義龍、豊響、豊ノ島といったあたり。とくに宝富士と荒鷲は中盤までとは別人のように「らしい」相撲の数々を見せての終盤5戦全勝。彼らはもちろんのこと、幕内下位の相撲内容がここまで良化したのはホント想定外でして、投げやり気味になっていた私自身の観戦姿勢を大いに反省させられました。

で、幕内下位で盛り上げられた館内の熱気が、終盤戦も相変わらずスッカスカの幕内上位の取組を経てもそれが冷めることなく、役力士同士の取組に影響を及ぼしたのではないか?と思うのですね。

そして混戦の主因ですが、まず1つは稀勢の里でしょう。十三日目に稀勢の里が白鵬に勝ったことで白鵬と琴奨菊が併走することになり、なおかつ豪栄道と高安に優勝の可能性を開いたわけですからね。
でも、豪栄道、琴奨菊、日馬富士、鶴竜に完敗した相撲を思い起こせば、十三日目に単独トップという状況の白鵬に勝ったことは不思議。まー、稀勢については後述します。

稀勢は主因と言うよりは副因で、真の主因は誰が見たって琴奨菊の大復活ですよね。
私は琴奨菊が終盤で息切れするものと思ってましたが、それはまったくの杞憂に終わりました。白鵬、豪栄道には完敗したものの日馬富士には完勝、高安、大砂嵐には大関の貫禄を見せ付けるような堂々たる勝ちっぷりに、カド番だったことを忘れてしまいそうになりました。

そんな中で白鵬が幕内優勝回数を大台の30回に乗せて賜杯を抱いたわけですが、2つの黒星が落日の印象を強いものにしました。2つの黒星とは言わずもがな、腰が砕けたような形で豪栄道に浴びせ倒された相撲(十一日目)と、稀勢の里を土俵際に追い詰めながら小手投げで土俵下にひっくり返された相撲(十三日目)ですが、今場所すっかり株を下げた鶴竜と日馬富士にも勝機を充分に与える相撲内容を演じ、数々の不作法も手伝って、絶対王者の風格と貫禄は今場所をもって消え去ったと言ってよろしいかと思います。

それでも大鵬と千代の富士に次いで3人目となる30回目の幕内優勝を記録したこと、横綱昇進後1度も休場することなく務めていること、その他諸々の記録面ではお見事と言うほかありません。ただ、その立派に過ぎる戦績ゆえに、不作法や立合の汚さといった瑕疵が目立つのでしょうね。優勝者に主役感があまり無いのもそのためかと。そう思うと寂しいな。

あ、そうそう、すでに恒例となりつつある「技能賞は該当者なし」について声を大にして言いたい。
4場所連続で技能賞の該当者が無いというのは異常なことだと思います。

この名古屋場所が相撲内容スッカスカだったということでの技能賞該当者なしであるならば、それは私も同意するところです。ならば、まず観客に「技能賞受賞者も出せないような相撲内容でゴメンナサイ」と謝るべきですし、立合の正常化であるとか、安易な変化やそれを食らうことへの戒めであるとか、公傷制度の復活であるとか、指をくわえていないで色々な対策を講じてほしいものですが、そんな動きは見えませんよね?

また、三賞には関脇以下の力士に対する奨励の意味合いもあるはずです。
その三賞の中で、殊勲賞は金星を獲得した勝ち越し力士が不在であれば”該当者なし”も仕方ありません。敢闘賞も二桁勝ち星を挙げた力士が不在であるならば”該当者なし”も仕方ないでしょう。
しかし、技能賞は誰がどのように選考したところで主観的な相対評価でしかないのですから、それを4場所も”該当者なし”とするのは選考する側の怠慢なのではないか?とさえ思うのですよ。

今場所であれば、妙義龍、高安、荒鷲、豊ノ島あたりが授賞しても良かったのではないかと。それをまたもや”該当者なし”としたことは大いに不満です。


さて、各力士の総括へと移ります。
優勝した白鵬については語ってしまったので、ではまず大関昇進が確定した豪栄道について。

8勝7敗に終わった先場所の印象、そして初日の嘉風と、六日目の勢に敗れた相撲を思い起こすと、大関昇進に一抹の不安も感じないと言ってはウソになります。が、横綱大関陣5人に対し、豪栄道自身を含めた6人リーグで4勝1敗の単独1位、かつその勝ちっぷりの良さを考えれば大関昇進を阻む言葉など見つかるわけもなく、ここは素直に「おめでとうございます」と祝福したい。

引いたときの脆さを解消できれば、今後も優勝争いの常連として名を連ねる立派な大関になるものと期待しております。


もう1人の準優勝者、琴奨菊について。

前述したとおり、まさか中盤までの威勢が千秋楽まで続くとは思いもしませんでした。私の見誤りであり、琴奨菊には謝らなければなりませんね。ゴメンナサイ。

カド番を迎えての危機感で覚醒したわけでもないと思うのですが、白星の数ほどには代名詞のがぶり寄りに頼ることなく立合一気の速攻に全てを懸けていた感があります。相撲内容に欠ける凡戦多き今場所において、一服の清涼剤でした。ホントにありがとう。


敢闘賞の高安。
西前頭11枚目という家賃の安さもありましたけれども、連勝が途切れた後もツラ相撲的な連敗を重ねることなく千秋楽まで優勝争いに名を連ねての11勝は立派です。

先場所あたりまで不安視していた腰まわりの不調は見る影も無くなりましたし、劣勢、優勢関係なく、次の手、また次の手と休むことなく仕掛けていく姿に成長を見ました。また、出し投げの使い方が幅広くなり、高安が右上手を取るとワクワクするようになりました。

今後は幕内上位定着はもちろんのこと、3横綱3大関体制となる上位陣を脅かす存在になってほしい。や、それは充分に可能だと思わせる今場所でありました。


ネガティブな話としては稀勢の里について。

立合の形は理想的なのに、立合の鋭さ、圧力、ともに欠けるという不思議な現象に、観ているこちらがアタマを抱え込んでしまう、何とも悩ましい不完全燃焼な場所に終始してしまいました。

足腰に故障も疑いましたが、白鵬戦を筆頭とする押し込まれてからの数々の逆転劇を考えると故障説には頷きがたいものがありますし…うーん。

武芸として大相撲を観ている立場としては精神論にその解を求むることは避けたいのですけれども、心技体の心に揺らぎを生じているのであれば、同い年の豪栄道が同じ大関の地位に並び、琴奨菊があれだけの復活を遂げ、更には弟弟子の高安が千秋楽まで優勝争いを演じてみせたわけですから、それを刺激に発憤しないわけがないと信じております。


そして、こちらは序盤戦振り返りの時点で早くも勝ち越し当確を打ってしまったほど相撲の進化を確信していたのに、千秋楽で負け越しの7勝8敗に終わってしまった蒼国来について。

協会公式プロフィールに「右四つ」と書かれているのとは異なる、左四つ右上手の相撲という新たな一面に力強さと安定感が感じられた今場所でしたが、右半身の下手相撲の過去と比べて相手の圧力をまともに受けてしまう傾向が生じ、突き立てられてそのままマワシに手が掛からずに土俵を割る相撲が目立ちました。

その点をどのように修正して秋場所を迎えるのか、その如何によっては30代の大化けもあるのではないか?と、まだまだ懲りずに期待しております。


総括に横綱を含まず終えるところでした。申し訳ない。
ですが、それほどに日馬富士と鶴竜の存在感は終始薄いままでした。

足首の故障を思わせる節があった日馬富士はともかくとして、鶴竜は横綱としての責務を放棄したに等しい大砂嵐に対する変化、そして金星配給、これが最後まで祟った形かと。先場所と比べれば相撲内容もマシなものであり、白鵬も盤石とは言えない状況であったのに…鶴竜にとっては実にモッタイナイ今場所だったと言えましょう。

それと、日馬富士の両足首からテーピングが取れる日を心待ちにしております。終盤では土俵入りにも影響が見られましたから、強く懸念しております。


大砂嵐については序盤後と中盤後で書き切っているので書くところが無いです。

それにしても、金星2つ獲っての負け越しは安芸乃島以来かな?
この負け越しにより金星を配給した横綱の株がSTOP安。かと言ってあの相撲で勝ち越されては相撲という武芸の理が疑われてしまいますし、どうにも扱いに困る大砂嵐ではあります。


8勝7敗で勝ち越した遠藤ですけれども「贔屓の引き倒し」という言葉が遠藤を取り巻く環境にそのまま当てはまりそうで可哀相にさえ思います。千秋楽77平幕力士の遠藤が、碧山に当たり負けるまま引いたら碧山が落ちたってだけの相撲に対するあの大歓声、そして過剰に讃える実況、これを「贔屓の引き倒し」と言わずに何と言えばよいのでしょう。

私は遠藤の柔軟性と勝負勘に非凡なものを感じますが、学生相撲出身という体力の上積みが望めない年齢でデビューした力士でありながら、立合での当たりを筆頭に力の弱さが目立つことに、そのノビシロを疑問視し始めております。

今場所は西前頭5枚目で関脇以上との対戦はありませんでしたが、秋場所では4枚目以上に番付を上げて横綱を含む上位陣との総当りに含まれるはずで、真価が問われる場所となります。取材や追っかけは控え、遠藤に稽古を積ませてあげてください。


うー、名古屋場所についてはこんなところかな?

正直な話、贔屓の稀勢の里の低調ぶりもありましたけれども、序盤から中盤にかけての凡戦の連続に興を削がれてしまい、終盤の盛り返しを楽しむ気持ちさえも失われてしまうという、観ていてツライ場所でありました。

3横綱3大関と番付のバランスが良くなり、三役も総取っ替えとなって新しい風が吹くであろう秋場所に期待しまして、筆を置きたいと思います。

最後に、Twitter #sumo 部の皆さん、今場所もありがとうございました。

今場所は皆さんの大相撲の在り方を憂うTweeが目立ちましたけれども、表層にはなかなか表れない大相撲ファンの良心を見た思いがします。皆さんのようなファンが大勢いるならば、大相撲も徐々に良い方向へと向かってくれるものと信じます。




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