パワハラ問題2ndステージ

日本体操協会のパワハラ問題が大騒動になっておりますが、どうも争点が変な方向に流れつつあるような気がしまして、ブログに書いておこうと思います。

このパワハラ問題における私の注目点は、スポーツ界におけるハラスメント問題が新しいステージに進んだということです。

これまで世間を騒がせてきたハラスメント問題は、被害者(主に選手)が加害者(主に指導者)を訴えるものでした。

しかし今回の起点は、被害者とされる宮川選手側からの訴えではなく、体操協会が周囲の目撃情報を元に速見コーチのパワハラを調査して認定し、その認定に被害者であるはずの宮川選手が不服を申し立てると同時に、調査過程において協会副会長と強化本部長である塚原夫妻からパワハラを受けたことを表明するなど、これまでのハラスメント問題とは一線を画す異例の経緯を辿ってます。

今件は多くの示唆が含まれており、ハラスメント対応の分水嶺になるかもしれません。私を含む指導者の立場にある者は今後の推移に注目すべきでしょう。


注目すべきは以下の視点かと思います。

1.第三者によるハラスメント申し立ては有効なのか?
1-1.その第三者に悪意があるケースは考慮されているのか?
2.被害者が存在を認めないハラスメントは認定されるのか?
3.被害者・加害者双方の異議申し立て機会は十分にあったのか?
4.過去のハラスメントはどこまで遡れるのか?
5.無期限登録抹消という処分は妥当なのか?


1.第三者によるハラスメント申し立ては有効なのか?

これについては有効として良いと思います。

とくに第三者の視点で認められる暴力や暴言はハラスメントの枠を超えた犯罪ですし、被害者は選手という立場上、申し立てが難しいこともあるというのは容易に想像できますので。

しかし、

1-1.その第三者に悪意があるケースは考慮されているのか?

という点も同時に考えなければなりません。

今回は、宮川選手を速見コーチから引き離し、塚原夫妻の所属するチームへの転籍を誘導する動きが塚原夫妻やその周囲からあったと、記者会見で宮川選手が述べてます。

それが事実であるかはさておき、選手の引き抜きやライバルチームの崩壊を意図しての悪意あるハラスメント申し立ても十分に想定できることですから、それへの対応が考慮されるべきです。

今件の場合、塚原夫妻に悪意が無かったとしても、調査の過程でそれを疑われる言動があったことや、協会としての意思決定や選手選考に力を持つ役職者が第三者を介さずに被害者聴取を実施したことについては、軽率の誹りを免れません。


2.被害者が存在を認めないハラスメントは認定されるのか?

これも1.で述べたことと同じ理由により、認定されるべきとは思います。

しかし、被害者が申し立てをしたケースよりも慎重な調査認定作業が不可欠であり、1-1.でも述べたように、第三者視点の担保もまた必要不可欠になるのですが、今件ではそれが著しく不足しているように感じます。

また、ストックホルム症候群的な洗脳の可能性も含め、被害者へのケアが大切になりますが、今件の場合、被害者である宮川選手が日本代表から外れざる得なくなった上に所属先との契約を解除されるなど、被害者が置き去りになっている感が強いことは大きな問題です。


3.被害者・加害者双方の異議申し立て機会は十分にあったのか?

加害者とされる速見コーチの聴取を体操協会が実施した際、速見コーチが弁護士の同席を求めたけれどもこれを認めず、1人で聴取に応じることを強く求めたことは問題です。

ここでもやはり第三者の視点が欠けており、宮川選手の処遇を人質にしてパワハラ行為を認めるように迫ったのではないか?と疑いをかけられても、体操協会がそれを説得力ある形で否定することはできないでしょう。

被害者側の聴取に関しては、これが十分であれば宮川選手が記者会見を開く理由がありませんから、愚問というものです。

被害者・加害者の異議申し立て機会は、第三者視点の担保された環境と充分な時間が用意されるべきです。


4.過去のハラスメントはどこまで遡れるのか?

今件では5年前のハラスメント行為まで遡りましたが、現在18歳の宮川選手の5年前となりますと13歳の中学生時ということになります。

当事者でさえ記憶が曖昧になるところ、第三者の目撃情報のみでこれをどのように事実認定したのか疑問に思います。

また、日本のスポーツ界におけるハラスメントについての認識は日進月歩の状況にあり、5年前と現在とでは雲泥の差があります。
何年も前の行為を現在の認識の下でハラスメントと認定することの妥当性には強い疑問を感じます。

今件については、いわゆる事後法である可能性があるように思えます。
ハラスメントに関する処分規定を盛り込む際には、何年何月より適用する旨が明記されるべきだと思います。


5.無期限登録抹消という処分は妥当なのか?

無期限登録抹消というのは指導者にとって極刑に等しい重い処分です。

ここで、日本体操協会が速見コーチのパワハラと認定した行為を確認してみましょう。

引用元:日本体操協会「許さない」速見コーチの暴力行為列
挙(日刊スポーツ)

◆13年9月 NTCでの国際ジュニア合宿の時に顔をたたく。

◆15年2月 海外合宿での、大声でのどなりつける行為。

◆16年1月 海外の試合で顔をたたき、顔が腫れ、練習中に怒鳴った。他のコーチからの引き留めもあった。

◆同3月 国際大会中、Tシャツをつかみ、引きずり降ろす行為。

◆同5月 前所属先で頭をたたく、怒鳴る行為で注意された。それらの行為は日常的に実施されていた。

◆同7月 海外合宿中、1時間以上の長時間、立たせていたことで厳しく注意を受けた。

◆17年1月 前所属先で暴力があり、無期限の謹慎処分。

◆同8月 NTCで髪を引っ張り、出入り口まで引きずり出した。

◆同9月 NTCで髪を引っ張り、倒すなどの行為。

◆18年4月 NTCで指導中に大声で怒鳴る。

◆同5月 東京都体育館のサブ会場でも、同様の怒鳴る行為があった。

以上、引用ですが、宮川選手は赤字で示した2件しか記憶にないとのことで、体操協会と当事者の間で認識に大きな乖離があるということを前提とせねばなりません。

その上でこれが事実だったとして話を進めますが、今年(2018年)のものは「怒鳴った」2件のみなのですね。

もちろん「怒鳴った」くらいで無期限資格停止処分を食らうわけなどなく、体罰を含めた過去のパワハラ事案の累積による処分とされているのですが、その累積過程、例えば直近の暴力行為があったとされる2017年9月の時点や、前所属先から無期限謹慎処分を受けたとされる2017年1月の時点、他のコーチによる制止もあったとされる2016年1月の時点において、体操協会から訓告処分や期限付きの資格停止処分といったものは下さていない様子です。

2013年から約5年もの長きにわたり見過ごしてきたものを、「怒鳴った」ことを起点にしていきなりの無期限登録抹消処分というのは理解し難いものを感じます。

また、第三者視点で「怒鳴った」と確認できる、いわゆる言葉の暴力を含む指導は、体操競技のみならず他の多くのスポーツ競技の指導においても広範に確認できるものであり、もちろん私の守備範囲である剣道でも枚挙に暇がありません。

すでに4.で述べたこととも重なりますが、それを起点に過去数年にも遡って調査され、被害者とされる選手が否定しても、パワハラの累積で処分されてしまうという流れが確立したならば、日本国内では数え切れないほど多くのスポーツ競技指導者が処分を受けることになるでしょう。


長々と書いてしまいましたが、私は以下の二点について懸念しております。

  1. 指導者のハラスメントに対する認識がまだまだ改まらない現状で、世間のハラスメント認定の基準がより厳しいものに移行することにより、世間と指導者のハラスメントに対する認識の乖離が拡がる一方であること。
  2. ハラスメント問題が起きると、事実確認もおろそかなままに、組織防衛反応が働いて指導者に対する性急かつ厳罰な処分が下され、指導者は異議申し立て機会も得られぬまま即日に指導者の立場を追われてしまうケースが多発していること。

いずれにしても、無秩序な状態の中でハラスメント騒動だけが大きく取り上げられる現状では、落ち着いて指導することが困難になりますので、早急な法整備とシステム作りが必要だと思ってます。

スポーツ競技指導者のみなさん、他人事ではありませんよ。




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