夏場所序盤戦評
大相撲夏場所は序盤の五日間を終えて六日目まで進んでおりますが、ここで六日目を含む各力士の戦評を記しておきたいと思います。
その前に夏場所幕内上位戦の印象ですが、攻防ある相撲の出現率がなかなかよろしく、立合も1日に何度か不成立を見る日もあるものの平均的には良化の兆しが感じられ、贔屓している横綱と大関が休場しているにしては楽しめております。
また、新任の審判部長である阿武松と、審判部副部長の藤島による物言いから審判協議を経ての場内説明を聴く機会が数度ありましたが、いずれも明確かつ滑舌の良い場内説明であり、これも場所の雰囲気をピリッと締めている感があります。
国技館に足を運んだお客さんにはなによりのことですし、力士にも「ちゃんと観ているぞ」というメッセージとして伝わっているのでしょう。
なお、元審判部長殿は五日目の序二段で正面審判を務め、その中で2回ほど物言いが付いて協議内容の場内説明をする機会があったものの、相変わらずの言葉足らずでヤジを飛ばされていたとのこと。がんばれ一兵卒。
では、番付順に序盤戦評。
ただし、今場所開催中は多忙につき、幕内上位戦しか終えていないので、総当りに含まれるTOP16の力士のみの戦評とさせて頂きます。
横綱鶴竜。
黒星を喫した一番を除けば幕内上位の中で最も安定した相撲内容で、安心して観ていられる。
四日目に松鳳山を相手に不覚を取ったのは立合で見過ぎての立ち遅れであり、それが差しではなく突き押しにいった松鳳山の選択とマッチしてしまっての事故と考えてよく、五日目と六日目の相撲を観る限りは全く引き摺っていない。
今場所の軸は鶴竜。
横綱白鵬。
今場所に限った話ではないが、日々相撲を変えており安定感を欠いている印象。
経験智による立合の妙味は賛否あれども結果を出しているものの、やはり休場明けとあって相撲勘の回復はまだ途上のように感じる。
阿炎に初金星を献上した六日目が分水嶺となって崩壊するか、持ち直して星をまとめられるかを測るのに、七日目の相手である千代大龍の強烈な押し相撲にどう対処するかという点はこれ以上ないリトマス試験紙と言える。
なお、立合の張り差しについてはTwitterで持論を述べたが、場所後に別に記事を立てたいと思う。ともあれ、世間やマスコミを賑わす張り差しそのものをNGとする論調には苦々しい思いを禁じ得ない。
大関豪栄道。
今場所の豪栄道は戦評が難しい。
魁聖、松鳳山、豊山に勝った相撲は、低く鋭い踏み込みの立合と、完璧な角度の前傾姿勢をキープしての流れるような相撲展開に惚れ惚れするほど。
しかし、遠藤、玉鷲、千代大龍に負けた相撲は、相手の相撲がバッチリ嵌まったと言うよりは自ら墓穴を掘ったような内容ばかりで、目を覆わんばかりの惨敗。豪太郎クラスタへの同情を禁じ得ない。
困ったのはその理由がまったく分からず、想像さえ付かないこと。祈るように中盤戦を観察するほかない。
関脇栃ノ心。
大関を狙う場所での序盤戦土付かずはお見事。
ただし、相撲内容が安定しているかといえば、若干の不安は否めない。格下相手の序盤戦で得意の右四つ左上手の相撲の出現率が半々というのは安定感を欠いている印象。
右肩痛との情報もある中、「無理を通せば道理引っ込む」的な相撲によって古傷が再発することを心配する。
なお、大関昇進には当確を打ちたい。すでに大関の格で相撲を取っており、対戦力士も半ばそれを受け入れている。3場所通算勝利数を問うことに意味を感じない。
関脇逸ノ城。
四日目までは225kgの体重を利した逸ノ城らしい相撲で完勝。
遠藤、玉鷲にそれぞれベストの相撲を取りきられて2敗を喫したが、これは相手が良過ぎただけであり、それでも相手に大汗をかかせているのだから忘れてよい。
先場所の終盤戦で、理由が見えないまま、組み手を得られないとすぐに引くという以前の逸ノ城に戻り、千秋楽に復活したが、まさか今場所も同様なことは起きないだろうな?と少しだけ心配しているが、これは伏せて今後の逸ノ城の相撲に注目したい。
小結御嶽海。
栃ノ心には右四つ左上手に捉えられての完敗も、白鵬にはあわやの展開を見せ、4つの白星も馬力と独特の間合勘が感じられる好印象の相撲内容を示している。
とくに立合の鋭さは目を見張るものがあり、まだ鶴竜と豪栄道との取組を残しているけれども、星を伸ばしそうな雰囲気が充分に感じられる。期待したい。
小結遠藤。
Twitterでも述べたが、五日目の逸ノ城戦は今場所序盤戦における珠玉の一番だった。逸ノ城に対する理詰めの相撲を満喫して大満足。あとは勝ち越してくれれば今場所は言うことなし。
初日の鶴竜はともかく、阿炎と御嶽海に喫した黒星は相手が良過ぎたので仕方ない。今場所は好調力士同士で星を食い合う展開なのかもしれない。
近年の課題であった前に出る圧力が明らかに増しており、この点が相撲内容に直結していることは私が述べるまでもないことで、中盤終盤も大いに楽しませてくれると思う。
玉鷲。
三日目までの鶴竜、白鵬、栃ノ心との相撲は観るべき所が無く、格違いで負けるのは仕方ないにしてもほとんど抵抗できていない一方的な負けで、どこか故障してるのか?と心配するほどだったが、四日目の豪栄道に引いてもらい、これに乗じて押し込めたことで自分の相撲を思い出した様子。六日目の逸ノ城に見せた突き押しこそが玉鷲の相撲であり、これが定着するか否かが問われる中盤戦になる。
魁聖。
先場所の大勝ちで前頭筆頭まで番付を急上昇させて臨んだ今場所であるが、初日からの5連敗はともかく、応援する人をガッカリさせる相撲内容には眉をひそめてしまった。
四日目の白鵬戦などがその代表だけれども、上位力士と対戦するにあたって工夫が微塵にも観られず、横綱になったかのように真正面から受け止め、力の差で完敗する毎日では応援する側が疲弊してしまう。もちろん、誰が相手でも相撲を崩さないというのは魁聖の良い点でもあるのだけれども、それにしても度が過ぎていた。
関脇以上との取組を終えて迎える中盤以降で、相撲をかたくなに崩さなかったことが効を奏して星が伸びることを祈るばかり。気持ちの良い力士であることは知っているのでホント祈る。
松鳳山。
んー、先場所の奮闘は、師匠が退院したことで置き忘れてしまった様子。
金星を得た鶴竜戦は相手の立ち遅れに乗じてのタナボタ。それよりも、白鵬戦や千代大龍戦で電車道に敗れた相撲の印象が強く、関脇以上との対戦を終えての今後の相撲にも期待を持てない。贔屓力士であるので、復調を切に願っている。
阿炎。
初の上位挑戦となった今場所だが、四日目の遠藤戦で覚醒した様子。
立合の両手突き、これ一本で勝負する気持ちが定まったというところではないだろうか?
遠藤、鶴竜、白鵬といった大看板を相手に、両手突きの立合が殿上人にも通用するという手応えを覚え、大横綱から初顔で金星を得られたことで自信を深めたであろうこと、想像に難くない。中盤以降も大暴れを期待したいが、インタビューの受け答えには苦笑するほかない。この点は部屋付き親方である豊真将の立田川の指導を期待したい。
大栄翔。
いまだに初日が出ておらず、相撲内容が徐々に向上してきたところに横綱2連戦となって気運が折られた形となって同情を禁じ得ない。がんばれ。
豊山。
彼もまた大栄翔と同様で、徐々に相撲内容は向上しているものの初日が出ない。さらにはこれから横綱戦(おそらくは2連戦)ときては、まぁ無心で闘えと励ますほかないかと。がんばれ。
千代大龍。
ここ数場所と同様、当たりの強さと突き押し圧力は良いレベルでキープできており、それが白星先行につながっている。すでに豪栄道を食っているが、役力士との対戦が組まれるであろう中盤戦が大いに楽しみ。
正代。
自身初の初日から5連勝と好調ではあるが、受け身の相撲が目立つ。
ただ、私としてはこの受け身の相撲、とくに押し相撲に対して脅威の粘りを見せる相撲を面白く観ており、これを賞賛することはあっても批判する気にはなれない。
上体が反り返っても下半身は崩れず、差し手を狙う両腕を常に前に伸ばす正代の姿勢は、押し相撲には悪夢であろう。
以上、TOP16(前頭四枚目以上)の序盤戦評でした。
それ以外の力士で特筆しておきたいのは、まずは琴奨菊。
とても相撲内容がよろしく、所作と雰囲気も大関時代のそれよりも良い印象。
菊バウワー、やっぱり要らないんだよね。
それと、十両になるけれど蒼国来。
先場所の途中休場により十両筆頭で今場所を迎えた蒼国来だけれども、ここで先場所の休場の際に提出された診断内容を確認してほしい。
「右リスフラン関節捻挫、右第1、2中足骨骨折などで全治2カ月の患部安静の加療を必要とする」
まさか今場所出場するとは思わなかったし、絶対に癒えていないであろう、サポーターで固めた右足を引き摺りながらここまで3勝3敗と星をまとめていることには驚くのを通り越して呆然としている。
願わくば故障を悪化させることなく千秋楽を迎えてほしいのと、やはり相撲協会には公傷制度の復活を検討してほしいという気持ちが強くなった。
その意味では照ノ富士の休場がとても悲しい。
ともあれ、今場所は贔屓の2人が休場しているので、相撲の技芸のみを楽しめてます。
中盤以降も大いに楽しみたいと思います。