初場所総括

先場所の最中に発覚した日馬富士による貴ノ岩暴行事件とその余波は年が明けても冷めやらず、報道という名を借りた雑音が耳障りな中で初日を迎えた初場所でしたが、雑音を意識的に無視することによって、いつもの場所より土俵上での出来事に集中できたのはケガの功名と言えるかもしれません。

この初場所を一言で申しますならば、波乱の場所でありました。

平幕優勝の場所をわざわざ「波乱」と言うのも陳腐ではありますが、過去の平幕優勝場所とはいささか様相が異なるのです。


というわけで、見事初優勝を飾った栃ノ心から参ります。

まず、平幕優勝ではありながら、栃ノ心は役力士と総当たりする番付におり、なおかつ同部屋の役力士がおりませんから、番付運が一切介在しない掛け値なしの幕内最高優勝を平幕力士が為したという点で、とても価値の高い出来事です。

拙ブログは「剣道雑記帳」ですので(時折忘れそうになりますけど A^^;)、大相撲クラスタの外に向けて少し解説を述べておきましょう。


大相撲ではスイス式トーナメントを採用しているため、同じ幕内でも、東の横綱から数えてTOP16の力士による総当たりと、17位以下によるランキング戦とに分かれており、両者は基本的には対戦を組まれません。

※「基本的には…」
同部屋力士は対戦しないという制限や、途中休場力士の出現により、17位以下がTOP16と対戦することになるケースは間々あります。

ちなみに3横綱2大関で始まったこの初場所は、関脇と小結2名づつを加えて役力士は9名ですので、TOP16は東前頭4枚目以上になります。

よって、西前頭3枚目の栃ノ心は、白鵬や稀勢の里の休場に関係なく役力士と総当たりすることになります。

これに対し、役力士と当らない番付(TOP17以下)の力士が優勝するケースがあり、いわゆる平幕優勝の半数以上が該当します。

平成では、旭天鵬(2012夏)、貴闘力(2000春)、琴錦(1998九州)、琴富士(1991名古屋)の計4回。

いずれも三役クラスの実力を認められながら安定感を欠く力士が、前場所の不成績により幕内下位に降格し、家賃安な番付で白星を稼いでいるうちに上位が混戦となり、終盤に入って役力士との対戦を組まれるも、返り討ちにしたり、中盤までの貯金がモノを言うなどして優勝を手にするというケースです。

優勝した彼らを卑下するつもりは微塵にもありませんが、名前を挙げた4名の力士が大関以上に昇進していないことも含め、棚ボタ的な優勝と言っても誤りではないでしょう。

今場所の栃ノ心と同様に、TOP16に含まれる番付で役力士と総当たりしての平幕優勝は、平成では琴光喜(2001秋)、水戸泉(1992名古屋)、貴花田(1992初)、琴錦(1991秋)の計4回。

琴光喜と貴花田は番付を上げていく過程で優勝し、最終的に琴光喜は大関、貴花田=貴乃花は横綱まで昇進しました。

琴錦も上記の2人と同様の将来を期待されましたが、出来不出来のムラの多い相撲が改まらず、すでに挙げたとおり2回目の平幕優勝を果たすほどの実力がありながら、大関昇進はなりませんでした。

水戸泉は長年ケガに泣かされ続けた末に良コンディションを得ての優勝で、大関昇進の悲願は叶わず、優勝もこの1回限りでした。

栃ノ心はどのケースに名を連ねるのか?
見守りたいと思います。


さて、栃ノ心の相撲について。(やっとか A^^;)

強烈な左上手ばかりに目が行きがちですけど、左上手の強烈さは今に始まったことではありません。

まずは止まらないことが挙げられます。
逸ノ城戦などはその典型で、右の相四つがっぷりと組んで一呼吸置いた逸ノ城に対し、止まらずに攻めた結果として逸ノ城の左上手が切れて、幕内最重量を寄り切りました。

左上手は相撲の流れの中で取るケースが目立ち、左上手を得た後も止まらない。
おそらくはヒザへの負担を考えて短い相撲を取ろうとしてのことでしょうが、まさしく「ケガの功名」でありましょう。

また、差し手である右の仕事もよろしく、ケンカ四つで差し負けたのは宝富士戦と遠藤戦の2番だけ。この2番で白星を得たのも差し負けた後の右おっつけや抱え込みが効いてのもので、今場所の安定感を下支えしました。

少ない綻びを挙げるとすれば、長い相撲になると取口が乱雑となること。
前述の2番に高安戦が加わるかと思いますが、栃ノ心としては短い相撲にしたいので、粘られるのは嫌なのでしょう。

なお、唯一の黒星である鶴竜戦は綻びには数えません。
あの両差し相撲は鶴竜ならではのオンリーワンであり、あれをやられたら現在の幕内力士で対抗できる力士はおりませんので。


その鶴竜ですが、2場所連続の全休明けで進退が問われる中、心配されつつ出場した初場所でしたが、途中休場した他の2横綱を尻目に十日目までは水も漏らさぬ完璧な相撲内容で連勝街道を驀進し、その相撲を観る誰もが鶴竜の完全復活を確信しておりました。

その無敵の十日間の中で、前述したとおり絶好調の栃ノ心を井筒のお家芸である両差し相撲で完封したわけですから、この時点で鶴竜は間違いなく幕内最強の力士でした。

しかし、場所の終盤に入ってみれば、十一日目よりまさかの4連敗。立合で押し込めず、相撲の流れを得られないまま安易に引いて墓穴を掘るの繰り返し。
豪栄道に立合から一気に押される中、幸運にも得られた左上手での捨て身の投げで星を拾った千秋楽も含め、終盤5番の鶴竜はまるで別人。

鶴竜本人も井筒親方も痛いのかゆいの言わないので真相は分かりませんが、先2場所の休場理由でもある足首と腰の故障が再発し、でも1人横綱としての責務と、進退が問われる今場所を途中休場するわけにはいかず、強行出場していたのではないかなぁと思うのです。

そうとでも思わなければ、あの終盤の大崩れは説明つきません。

悪癖とされている引きの理由をイップスに求める声も聞こえますが、引きの根本理由は立合で押し込む力とスピードが急に落ちた点にあり、これをイップスに求めるのは難があると思ってます。

いずれにしても、十日目までの鶴竜の相撲はTHE横綱相撲と言うべきもので、昨年の春に稀勢の里が大ケガして以降は観たくても観られなかった相撲内容でしたから、来場所は完全復調した鶴竜を強く望みます。


準優勝の高安について。

3人目でやっと贔屓力士評。今場所はノイズを無視して土俵上の相撲だけに集中してましたから、書きたいことが有りすぎるほど有るのです。
誰もついてこなくても書きますよ。と、暴走宣言。まだまだ長いぞ。A^^;

高安は脚の故障が癒えたと見えて、当たりの強さが戻ってきました。
とくに中盤から千秋楽にかけては右かち上げもエンジン全開の様相で、対戦力士の辟易とした顔をニマニマと眺めていた中日からの八日間でした。

あ、白鵬のかち上げに対する批判で、かち上げそのものを批判してしまうと、高安や千代大龍のかち上げもダメだということになりますから注意が必要です。

前にも書きましたが、白鵬のかち上げや張り差しは技そのものではなくて、合気外しがダメなのです。

白鵬は合気が外したところにかち上げを見舞うから危険なヒジを鋭角に食らわせて対戦相手にダメージを残してしまいますが、高安や千代大龍のかち上げは相手を弾くために合気で当るため、見た目や音は派手でも、相手が腰砕けになるようなダメージは与えません。

立合のかち上げがダメなのではなく、合気外しがダメなのだと、どなたか横審委員と知り合いの方がおられましたら耳打ちしてやってください。

おっと閑話閉題。高安の話に戻ります。

腰の位置の高さについては今場所も各解説者から言及がありましたけれども、体型的な腰高を無理に矯正しますとヒザを故障する例は欧州勢を中心に多々観てきましたから、そろそろ定型的な腰高批判は改められるべきではないかと思っております。

腰の高さよりも腰の前傾具合が問われるべきでしょう。
腰高の力士がマワシを得て引き付ければ相手の腰が浮くという利点は栃ノ心が示し、手足の長さを活かしての突き押しの効果は阿炎が示してくれました。

よって高安も、より正確な突き押しと、左四つ右上手からの寄りを磨けば安定性が増し、賜杯を抱く日も近くなると思うのです。

立合の高さは功罪併せ持ちますけれども、これも大関としての格を高めて合気の立合に引き込めば問題ないでしょう。

この初場所はその飛躍の下地となった。
後にそう言えるような平成30年であってほしいと願ってます。


白鵬と稀勢の里についてはまとめて述べましょう。

どちらも明らかに精彩を欠いており、これで横綱としての務めを果たせるとするような甘い考えが、相撲の神様にそっぽ向かれたのでありましょう。

その甘い判断は親方を含む周囲にも問題があると思ってます。

鶴竜と逆鉾の井筒と同様の師弟関係が、白鵬と竹葉山の宮城野、稀勢の里と隆の鶴の田子ノ浦に感じられないのが気になります。

とくに稀勢の里については、若の里の西岩や隆乃若氏も出場にGOサインを出し、ファンに期待させるコメントを発していた点を考えますと、参謀役が不在なのでしょう。

よく、横綱は孤独だと言われますが、白鵬は並び立つ者のない実績のため、稀勢の里はその国民的人気のため、良きアドバイザーを得られぬまま一人で全てを背負わなければならない状況にあるとも言え、その苦境に思いを馳せると何も言えなくなります。

白鵬については、立合に張り差しもかち上げも使わなかったことから、一部横審委員からの批判を受けて封印したとの声も聞きましたけれども、両足親指の故障により張り差しやかち上げに必要な出足が得られず、立合の選択肢から外すほかなかったというのが実情ではないかと思ってます。

稀勢の里については、左の胸筋に力が入らなくなった旨のコメントを残してますが、それ以前に足腰が出来上がっておらず、腰の前傾が得られない上にすり足もままならないのですから、単純に稽古不足だっただけでしょう。

総見の時点で仕上がってなかったものを、高安と日に30番取ったからといって、そんな急ピッチに仕上がるわけがないのですよね。西岩や隆乃若氏の景気良いコメントを聞き、つい期待してしまった私がバカでした。
そのおかげで高安が仕上がったことだけが贔屓にとっての救いですね。

ともあれ、稀勢の里本人とその周辺は猛省してほしい。


苦い話をしてしまったので、甘い話を。

今場所の逸ノ城はホント面白かったです。

幕内での2場所連続の二桁勝ち星は初めてとのことは意外でしたが、サンバラ髪の異相で猛威を振るい「怪物」と呼ばれた頃の強さとは異なり、幕内最重量のパワーを下支えに相撲の理を整えて白星を積み上げる姿は「ホントに逸ノ城?」と思ってしまうほど、過去の記憶にないものでした。

ひどい棒差しだった右が見違えるような芸達者になりました。
稀勢の里に左差しを誘い、腕を返すところを巻き替えて右差しなんて芸を目の当たりにし、贔屓の稀勢の里が敗れたというのに感心してしまうほどです。

左上手からの鮮やかな出し投げも披露。
その左上手を先に取ってからの右四つ、左で抱え込んでの右差しから左上手、突き押しを跳ね返して脇が空いたところに右差しから寄って左上手などなど、右四つ左上手に至る取口も多岐に渡り、まだまだ引き出しがありそうな感じです。

今場所の逸ノ城に技能賞を与えなかったのは三賞選考委員の不明ですよ。
でも、そんなことはどうでも良いと思えるくらい、逸ノ城が三役に復帰するであろう春場所が楽しみです。


三賞といえば、新入幕二桁ということで阿炎と竜電が受賞したみたいですが、幕内下位は追い切れていないので寸評は控えます。

ただ、阿炎は色々と面白いねw


横綱大関陣では豪栄道に言及してなかったので少し述べます。

良い相撲と悪い相撲がハッキリしてましたよね。
立合は総じて低く、出足も鋭いものがあったので、体調面の問題は少ないと思うのですよ。

逆に、体調面が良すぎて相撲を急ぎ過ぎ、相撲の流れの中で踏むべきプロセスを疎かにしてた感があります。一言で言えば「雑」なのです。

8勝7敗という星数ほどには悪い相撲内容ではなかったと思ってます。
千秋楽の鶴竜戦などはその典型ですが、雑な攻めの間隙に投げを食らって転がったあの相撲のようなケースで黒星を多発してしまっただけかと。

春場所、急に立ち直っても不思議とは思いません。


期待の高かった御嶽海、阿武咲、貴景勝、北勝富士の失速について。

阿武咲、貴景勝、北勝富士の3人については、幕内の勤続疲労でしょうね。幕内上位で相撲を取り続けるにはまだ力不足なのです。

ここは番付エレベーターの幅を徐々に短くしつつ、時間をかけて力を付けねばならないところですので、どこかの解説者みたいに「大関候補だ」などと煽ることなく長い目で応援すべきかと思います。

その点、御嶽海は場所が終わってみればいつも勝ち越している不思議な力士で、今場所のように破竹の勢いで初日から7連勝したかと思えば、あれよあれよと貯金を吐き出しての8勝7敗なんてこともあれば、序盤中盤で黒星先行だったのに役力士から白星を奪いまくっての9勝6敗とか、うまく星をまとめるのですよね。

要するにまだ大関を狙うには力不足ということなのですけど、8-7や9-6で関脇を守り続けているうちに力を付けて…という豪栄道・稀勢の里コースを歩む力士なのかもしれませんね。

ともあれ、若い力士はその成長と番付推移を長い目で見て愛でるべきでありますよ。北の湖・貴乃花・白鵬のような彗星は四半世紀に1人いれば良いのです。


安美錦と照ノ富士の出場強行には異を唱えたい。
両名とも途中休場した後は再出場すべきではなかった。

再出場した本人の体はもちろん心配ですが、闘える体調ではないのに土俵に立つことは対戦相手への礼を欠いてます。再出場を指示したのか許したのか分かりませんが、師匠である旭富士の伊勢ヶ濱がなんとしても再出場を止めるべきでした。

それでも安美錦はまだ良い。千秋楽で「らしい」相撲を見せられたから。

照ノ富士の全敗は、照ノ富士とファンの心を折るだけの結果であり、無残極まりないものがあります。

2横綱の強行出場と途中休場の件も含め、出場・休場の判断に協会や第三者が介在すべきではないか? という考えが強まりました。


琴奨菊にはちょっと落胆させられました。些細なことですけどね。

まず1つは阿炎へのダメ押し。
や、ダメ押しと言っても寄り切った後にチョイと突いて阿炎をよろけ落ちさせただけのことですが、てこずらせた若手に対するとても意地の悪い行為に映りました。

もう1つは千秋楽の宝富士戦。
7勝7敗同士ですよ。絶対に変化しない宝富士が相手ですよ。
なのに立合の変化で勝ち越しの星を拾いに行ったのですよ、この元大関は。そして負けた。

小錦も霧島も、MSPが代名詞の雅山でさえも、そのような無様な真似はしなかった。

もしかしたらケガなどの理由があったのかもしれないけれど、元大関が平幕として相撲を取り続けることの意味を琴奨菊に問いたい。


苦言が続いてしまったけれども、2横綱を欠きながらも活況だった今場所を褒めて終わりたい。

平幕優勝は世代交代の証。
旧世代の役力士は激しく抵抗するだろうし、新進気鋭の若手はそれを凌駕しようとするでしょう。

稀勢の里を贔屓する私としては苦さも味わうことでしょうが、平成30年の大相撲は間違いなく面白くなるであろうと確信してます。

ゆえに土俵外の雑音は早々に封じて頂き、そんな昼ドラもどきよりも本場所の土俵の方がずっと面白いということを世間にアピールして頂きたいものです。

拙ブログも、微力ながらその一助となるべく努めます。


超の付く長文にお付き合いを頂き、ありがとうございました。m(_ _)m


Comments (2)

  1. shin2

    >>大相撲ではスイス式トーナメントを採用しているため、同じ幕内でも、東の横綱から数えてTOP16の力士による総当たりと、17位以下によるランキング戦とに分かれており、両者は基本的には対戦を組まれません。
    初場所は白鵬と稀勢の里が早々に途中休場したため、TOP16の16番目の東前頭5枚目隠岐の海は横綱大関関脇5人と総当たりで、17番目の西5枚目遠藤は鶴竜以外の役力士とは対戦していない。鶴竜戦も阿武咲の途中休場の代打で、なんで西小結と横綱の対戦が前半に組まれなかったのか、審判部の取組編成ミスか?
    結局「阿武咲の代打・遠藤」に敗れて鶴竜は2敗目、賜杯が逃げて行ったわけだが、もう少し取組に融通が利かないものかと思う。負け越しが決まっている平幕力士と6勝6敗の大関の対戦を十三日目に組んでも、盛り上がりようがない。
    昭和40年代後半から50年代前半は、平幕下位の好調力士と横綱大関との対戦がもっと多く組まれていたと記憶するが、もう「TOP16」方式は変わらないんだろうか。

    Reply
    1. 甚之介 (Post author)

      またも遅レス。申し訳ありません。m(_ _)m

      さて、大相撲はスイス式トーナメントを採用しているとはいえ、同部屋力士の対戦は組まれず、全休力士はもちろんのこと途中休場力士の対戦相手への不戦勝は均等に配られないのですから、審判部の裁量に任せられる部分は多々あります。
       
      なので、なにをもって編成ミスと判定すべきかは難しいところがありますけれども、観る側としては「お♪これは楽しみ♪」と思えるような取組をいつも待っております。
       
      しかしながら、翌場所の番付にも影響しますから、あまり割りを崩してしまうと弊害にもなるでしょう。なかなか難しいところですね。

      Reply

Leave a Comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です