まっすぐ振るのは難しい
剣道における基本動作として、竹刀を刃筋正しくまっすぐに振ることが求められますけれども、実はこれが相当に難易度の高いことなのだということを初心者指導の際に忘れないよう心掛けねばなりません。あ、自省です。A^^;
竹刀を刃筋正しくまっすぐに振ることが難しい理由は主に以下の4つです。
まず、まっすぐに振れているか否か、鏡の前にでも立たない限りは目視できないということが1つ目の理由。
逆に言いますと、鏡の前に立つことで分かることは山のようにありますので、等身大の鏡のある稽古環境であるならば必ず鏡の前に立つべきです。
2つ目の理由は、両手操作の割に竹刀が軽量に過ぎ、重心が手元近くにあること。
野球のバット、ゴルフのクラブ、ホッケーのスティック、ボートのオール、薪割りの斧、畑を耕す鍬、餅を搗く杵、工事用のハンマー、他にも色々ありますけれども、これら両手操作の道具というものは大多数が先に重心があり、総重量が竹刀より重いものばかりです。
おそらくは、さほど力の無い人間の腕力を最大化するためなのでしょうけれど、その重さゆえ、振りに左右のブレを生じたらそれが腕に伝わるのです。
しかし、竹刀は軽くて重心が手元近くにあるため、ブレを生じても腕に伝わりません。
また、上で例に挙げた両手操作の道具は、まっすぐ振らないと結果が得られません。バットをブレることなく振って打たないとボールが飛びませんし、斧をブレずに刃筋正しく振らないと薪を割ることができませんので、自律矯正が働きます。
ところが剣道の場合は竹刀の振りが多少横ブレしてもメンやコテを打つことは(正確性や手応えを抜きにすれば)得られるので、自律矯正は働きません。
3つ目の理由は利き手。
これは面紐や胴紐が結べるようになるまでの時間が長くなっていることにも繋がりますが、ひと昔前と比べるとすっかり押しボタン社会となった現代社会は、利き手だけで大概のことは用が足りてしまいます。
よって、利き手と利き手ではない方の手の働きに差が生じ、とくに右利きの初心者の場合は右で振り上げ右で振り下ろそうとする傾向が強く表れがちで、結果、左を引っ張り上げるために右に開く振り上げ方になりやすいのです。
なお、左利きの場合は右利き用に出来ている色々なものを利き手ではないながらも右で使うことを強いられる場面が多いためか、腕の働きに左右差を感じることがあまりありませんね。
4つ目の理由は足の構え。
右足が前で左足が後ろの構えは左右に不安定なので、バランスを取るために竹刀の振りにブレを生じる場合があります。
また、相手に対して腰を正対させるべきところ、右半身の形になることを誘う足の構えですので、腰が正対していないから振りにブレが生じている場合もあります。
主な4つの理由を挙げましたけれども、そもそも腕の長さが左右ほぼ同じなのに、右手が前、左手が後ろという握り方で竹刀をまっすぐ振るということ自体が不自然で難しいことなのです。
当たり前のように竹刀を振れるようになってからの年月が長いので忘れてしまっているのかもしれませんが、自分たちも竹刀をまっすぐ振れるようになるまで相当の時間と素振り回数を費やした筈です。
また、まっすぐ振れるようになったと思っていても、たまに鏡の前に立つと振りにわずかながらブレが生じていることに気付くことも珍しくないでしょう。
私の場合、先天性の斜頸があるので敏感になっているだけかもしれませんが、一刀流の極意とされる切り落としが可能になるほどのまっすぐな振りを求めるべく、より極みの「まっすぐ」を追求すべきと思ってます。
そう考えるならば、初心者や小学生がなかなか竹刀をまっすぐに振れないことにイライラすることなく、根気よくその子のツボを見つける努力をすべきですね。
そのツボがパッと分かるほどの慧眼は持ち合わせていないので苦労するところでありますが、まー、のんびり気長に稽古を重ねましょう。A^^;