宮本vs勝見の判定【全日本剣道選手権】

昨日(11/3)に開催された第64回全日本剣道選手権大会の準決勝第2試合、茨城代表・宮本敬太選手と神奈川代表・勝見洋介選手の試合における三本目の判定がやはり物議を醸している様子なので、私なりに解説をしてみたいと思います。

結論から申しますと、まったく正しい判定です。
しびれる試合を冷静な判定をもって審判を務められた3名の先生方には敬意を表します。


さて、件の試合はYouTubeで確認できますので、まずそちらをご確認ください。

一本目は3:48。宮本選手の相メン勝ち。
二本目は6:38。勝見選手のコテ返しメン。
そして勝負の三本目は6:52。宮本選手のツキ⇒勝見選手の引きメン。


物議を醸している三本目の判定の前に、一本目の判定について述べなければなりません。スローモーション動画がYouTubeに上がってますのでご確認ください。

起こりは宮本選手。対する勝見選手が反応してその出端をメンで捉えようとしてます。

審判としての経験則になりますが、起こりが先であることと打突が先であることは必ずしもイコールにならず、このケースのように出端を捉えんとする側の意図が明確に読み取れる場合、いわゆる”先先の先”を利した出端メン側の打突が先となることが多いのです。

そのため、事象をあまり確認せずに出端メンに旗を挙げる審判員も少なくないのですが、今件の審判の先生方は優勝候補である勝見選手の出端メンという先入観を微塵にも含まず、しっかりと打突事象を確認し、迷うことなく宮本選手のメンに旗を挙げてます。当たり前と思われるかもしれませんが、なかなか出来ることではありません。

また、正面から見て左側の副審の先生は打突直後にスパっと旗を挙げましたが、他2名の審判の先生はそれに釣られることなく脳内リプレイを経た後に確信の旗を挙げてます。冷静に判定していることの証左であり、これもなかなか出来ることではないのです。


一応、スローモーション動画を貼っておきますが、二本目のコテ返しメンは解説不要でしょう。

サンスポの記事でこの二本目を悔やむ宮本選手のコメントが載っておりましたが、手詰まりから置きにいった宮本のコテに対し、これを返してのメンに捉えた勝見選手のキレキレの反応が三本目の行方を決めたと言ってよいかと思います。


さて、物議を醸している三本目。
下に貼ったスローモーション動画をご確認いただく前に、今一度試合の動画で二本目から三本目への流れを観て頂きたいと存じます。

前述したように、宮本選手にとっては悔恨の二本目でした。対する勝見選手は1本取り返して一息つきたくなるところの三本目開始。

主審の「勝負!」からの宮本選手の初手は下を攻めてからのメン気配を経てのツキ。試合開始直後の飛び込みメン、一本目の相メン勝ちしたメンの印象が勝見選手に残っているであろうところに両手ツキという宮本選手の選択はお見事でしたし、その突き技は強烈なものでした。私が審判でしたら宮本選手の剣先が勝見選手の突き垂を押した時点でパッと宮本選手の赤旗を挙げていたと思います。

しかしながら、上に貼ったスローモーション動画をご確認いただければお分かりになるかと思うのですが、宮本選手のツキが到達する前に勝見選手が裏鎬で応じており、それにより宮本選手のツキが宮本選手から見て左に流れてます。竹刀が流れた方向にグニャリと曲がる様がその証左と言えるでしょう。

竹刀の柔軟性により宮本選手のツキは勝見選手を押し込むことを得ておりますが、竹刀のガード越しに届いたメンが一本にならないのと同様、たとえ宮本選手がツキの後の残心を得たとしても一本にしてはいけないツキだったと言えます。

そしてテレビの実況と解説でも説明があったように、宮本選手は残心を得られずに勝見選手の引きメンを頂いてしまってますから、たとえツキ技が充分であっても引きメンとの相殺で、やはり審判員は宮本選手の赤旗を挙げてはいけないのです。

結果としてツキ技が有効ではない以上、無防備な状態となった宮本選手の面部を捉えた勝見選手の引きメン、これに旗を挙げるのは当然です。

とはいえ、観る側の心が猛烈に揺さぶられる宮本選手の勇気ある強烈なツキ技に動じることなく、勝見選手が裏鎬で応じるところを事象としてしっかり捉え、残心に至らないゆえにピクリとも旗を動かさず宮本選手のツキを無効と判定し、勝見選手の引きメンに躊躇することなく有効判定するというのは並大抵のことではありません。

結論、超ハイレベルな宮本選手と勝見選手の試合、これを裁いた3人の審判の先生方も超ハイレベルだったということです。


Comments (13)

  1. 老生、空手です。
    この、必殺の突きに心動かされ、一言。

    真剣ならば、宮本の突きで勝見は死。

    勝見から、「試合に勝って勝負に負けた」の叫びを望むのは老生のみか?

    Reply
    1. 甚之介 (Post author)

      刃さん、コメントありがとうございます。

      竹刀と真剣の刀術は全く違うものですので「真剣ならば」というifにはあまり魅力を感じませんが、記事本文でもその回答になりうる部分がございますので下記に再提示させて頂きます。
      —-
      引用始め
      —-
      >スローモーション動画をご確認いただければお分かりになるかと思うのですが、宮本選手のツキが到達する前に勝見選手が裏鎬で応じており、それにより宮本選手のツキが宮本選手から見て左に流れてます。竹刀が流れた方向にグニャリと曲がる様がその証左と言えるでしょう。

      >竹刀の柔軟性により宮本選手のツキは勝見選手を押し込むことを得ておりますが、竹刀のガード越しに届いたメンが一本にならないのと同様、たとえ宮本選手がツキの後の残心を得たとしても一本にしてはいけないツキだったと言えます。
      —-
      引用おわり
      —-
      つまり、「竹刀の柔軟性により勝見選手を押し込むことを得ておりますが、」柔軟性皆無の真剣であれば、勝見選手が裏鎬(しのぎ)で応じた時点で宮本選手のツキは突くことを得ずに逸れていた、というのが私の見解です。私は勝見選手が試合にも勝負にも勝ったと思ってます。

      Reply
  2. 刃です。
    申し遅れましたが、老生の視座は、「生死を賭ける武道」にあります。
    それ故に、「真剣」の言葉を使いました。
    その前提抜きで投稿した故、誤解を招いたようで失礼致しました。

    古来の剣術ではなく現代剣道に身を置かれている甚之介様が、剣道の試合の解説に「もしも真剣ならば」という文言をお使いになられるのは如何かと考えます。
    なぜなら、剣道の試合は、真剣からは遠く離れた地平で成り立っているからです。

    今回の投稿は、互いの視座の違いは承知しながらも、感慨を述べただけであります。

    Reply
    1. 甚之介 (Post author)

      刃さん、再コメントありがとうございます。
       
      >申し遅れましたが、老生の視座は、「生死を賭ける武道」にあります。
      >それ故に、「真剣」の言葉を使いました。
      >その前提抜きで投稿した故、誤解を招いたようで失礼致しました。
       
      なるほど、刃さんの最初のコメントにある『真剣ならば、宮本の突きで勝見は死。』の『真剣』とは物理的な事象ではなく、内面性や死生観を指す言葉であり、それを私が誤解したということですね。
       
      で、あるならば、
       
      >古来の剣術ではなく現代剣道に身を置かれている甚之介様が、剣道の試合の解説に「もしも真剣ならば」という文言をお使いになられるのは如何かと考えます。
       
      との物言いには些か腑に落ちないものを感じます。
       
      私から刃さんへのReply冒頭に『竹刀と真剣の刀術は全く違うものですので「真剣ならば」というifにはあまり魅力を感じませんが』と断りを入れていることから察して頂きたいのですが、刃さんに言われるまでもなく『剣道の試合は、真剣からは遠く離れた地平で成り立っている』ことは百も承知であり、「もしも真剣ならば」という文言を含んで解説することは不本意なのです。(あ、ここでの『真剣』は物理的事象を指す言葉ですよね? A^^;)
       
      その不本意を曲げての解説を試みたのは、他ならぬ刃さんが『真剣ならば、宮本の突きで勝見は死。』と仰るのを文字そのまんまに受け止めたからであり、それを『誤解を招いた』としながら『剣道の試合の解説に「もしも真剣ならば」という文言をお使いになられるのは如何かと考えます。』と仰るのは、オウム返しで申し訳ありませんが、如何かと考えます。
       
      その意味で、刃さんのコメントには困惑しておりますが、一方、このような剣道界の中で閉じてしまいがちな話題に剣道界の外からの視点でコメントくださったことにはとても感謝しております。
       
      また機会がありましたら、異なる座視からのコメントを賜りたく、今後とも宜しくお願い申し上げます。

      Reply
  3. ATS

    刃←(若干賛成) 甚之介 真剣の剣技が剣道の源流であり、全く別ものとは思えません。
    しかし、皆さんも同様と思いますが 全く”同じ”でもない と言う事は事実・現状!
    現世では 真剣勝負はあり得ないので あくまで剣道 という伝統武術としての範疇で
    楽しく・自由に交流しませんか?
    今は殺生の時代では無いのですから・・・ m(__ __)m
    25年ブランクあり40歳にして再開 少年剣道指導している 剣道愛好家?より・・・

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  4. ATS

    賛否両論あると思いますが 甚之介さんの判定・分析力には感心しました!!

    Reply
    1. 甚之介 (Post author)

      ATSさん、コメントありがとうございます♪
      この件に関しましてはいまだに各方面から賛否両面から生コメントを賜ります。宮本選手の地元ということもあって否の方が若干多い感がありますけど A^^; それぞれのご意見に一理あり、とても勉強になってます。

      Reply
  5. saru

    私は宮本選手の突きが一本だったと思います。
    突きが流れたと書いてあったり残心が取れていなかったという意見がありますが、
    突きは流れる前に完璧に打突部位をとらえていたし、流れても旗が上がっている突きなんて腐るほど見てきました。あと、打ち終わった後に完璧に構えていましたので、残心はちゃんとやっていたと思います。なんで上がってないの?と思いました。
    世界戦の団体戦決勝で、竹之内選手と韓国選手の試合で最後に竹之内選手の返し面が決まっていましたが、あのシーンもどう見たって韓国選手の小手だと私は思いました。
    共通しているのは返せていない返し面が一本になっているということをお伝えしたかったです。

    私自身はもうやめた身なのですが、10年前とほぼ変わっていない現状にうんざりしています。
    これからどんどんメジャーになっていくにつれて、判定に対しての疑問はますますおおきくなっていくでしょう。
    もう、選手自身が死にもの狂いで積み上げてきたものを簡単に踏みにじるようなことをしてもらいたくないと願うばかりです。

    Reply
    1. 甚之介 (Post author)

      saruさん、コメントありがとうございます。
       
      私の意見は記事本文で述べたとおりですので割愛いたしますが、この試合に限らず、判定にブレが生じてしまうことは競技剣道の大きな課題であることは確かです。
       
      この1点に絞っての課題解決であるならば簡単な話でして、審判の裁量に委ねる判定を減じ、物理事象による判定の正確性を高める、すなわち高度競技化、もっと平たく言ってしまうとスポーツ化を進めればよろしいのですが、それによる大きな副作用として先人が大切に育んできた武道性の喪失が挙げられ、これが大きなブレーキとなって「判定のブレ」というものが是正されるに至らないというジレンマに陥ってます。
       
      ただ、近年の全日本剣道選手権大会に関しましては、審判員の技量は年々向上していると思いますし、現状の試合審判規則における審判の裁量範囲内から逸脱した判定はお見受けしません。私も少年剣道の審判員を務める身ですが、同大会で審判員を務められる先生方は至極模範的な審判をされてますから、判定はもちろんのこと位置取りや所作など観ていてとても勉強になります。
       
      こうなりますと、不備があるとするならば、審判員ではなく試合審判規則なのです。
      そこに向かわず、または他の具体的改善方法の提議も無く、ただただ審判員が批判されるばかりの現状にはうんざりしつつあるというのが私の本音です。
       
      もうメンドクサイからセルフジャッジで試合したらよろしい…とさえ思うときがあります。

      Reply
  6. saru

    回答ありがとうございます。

    審判規則ですか。でもそれを審判をされている方がおっしゃるのはいかがかと。
    そして審判規則に問題があるなどと把握している選手は限られていると思いますよ。
    審判規則に対して不備があると思うなら異議申し立てをしなければいけないのは審判をされている方ではないでしょうか?

    セルフジャッジは私も賛成です笑

    Reply
    1. 甚之介 (Post author)

      saruさん、再コメントありがとうございます。
      色々と考えさせられますね。
       
      ところで、私の文章が拙いからだと思うのですが、私は審判規則に不備があるとは思っておりません。逆に、武道性と競技性を両立させている点を高く評価してます。
       
      そして、審判員を務めるからには試合審判規則の理解に努め、試合審判規則に則っての審判を務めること、これは当然のことであります。
       
      しかし現実には、私などより遥かに試合審判規則に精通し、剣道に対する知見を充分に有する先生が、試合審判規則における審判の裁量範囲内から逸脱した判定をしていないにも関わらず、批判を浴びてしまってます。
       
      ということは「不備があるとするならば、審判員ではなく試合審判規則」なのですよ。
      繰り返しますが「不備があるとするならば」であり、その不備は審判を批判する者こそが明示すべきでしょう。

      Reply
  7. saru

    回答ありがとうございます。

    >>私は審判規則に不備があるとは思っておりません。
    試合審判規則における審判の裁量範囲内から逸脱した判定をしていないにも関わらず、批判を浴びてしまってます。

    そうでしたか。

    >>「不備があるとするならば」であり、その不備は審判を批判する者こそが明示すべきでしょう。

    先ほども書きましたが、審判規則に問題があるなどと把握している選手は限られていると思いますよ。
    逸脱した判定をしていないならなぜ批判が起きているのか??
    うーん難しいですね。
    ただ、選手に審判規則の教育をさせるというのもひとつの解決策になるのかな・・・。
    実際選手の判定は規則は関係なしに、自分が一本と思ったか思ってないかでしか判断していないからですね。
    審判側の意見が聞けてよかったです。
    いずれにしてもいい方向に進んでくれることを願うばかりですね。
    私も考えさせられました。

    最後に、私のコメントで不快にさせてしまったところがあるかもしれません。
    申し訳ありませんでした。
    悪意を持って書いたということではないとだけ認識をお願いします。

    Reply
    1. 甚之介 (Post author)

      saruさん、再コメントありがとうございます。
       
      >最後に、私のコメントで不快にさせてしまったところがあるかもしれません。
       
      いえいえ、そんなこと全くございません。
      ご意見、コメントは歓迎しておりますし、感謝しております。
       
      >実際選手の判定は規則は関係なしに、自分が一本と思ったか思ってないかでしか判断していないからですね。

      うーん、そんなものでしょうか。
      ほぼ全ての剣道大会の開会式では審判長が「全日本剣道連盟試合審判規則ならびに細則に則り…」と宣言しているでしょうから、それを読まずに試合に臨むというのは…。せめて、高校生以上には、試合審判規則・細則と試合進行の手引きをアタマから最後まで読んでほしいものです。

      Reply

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