九州場所総括
恒例、九州場所の総括でございます。
この九州場所は14年ぶりの満員御礼となった初日を皮切りに、中日、そして千秋楽も満員御礼となりました。
序盤振り返りでも書きましたが、どうやら閑古鳥の駆除に成功した様子。
九州場所担当部長で元・大関若嶋津(鹿児島出身)の松ヶ根親方も感慨深いものでありましょうし、館内を盛り上げてくださった九州の皆様にも感謝しております。
その反面、ご当地力士への過度な集団応援が目に付きました。
この点は九州場所に限ったことではなく、両国でも同じことが言えますけれど、九州場所のそれは名古屋や大阪のそれを超えていた感があります。
観客にも本場所がより良い雰囲気の中で執り行われるように協力する義務があると思うのですよ。カネ出せば何やってもいいわけではないのでして。
歌舞伎を例に挙げると分かりやすいと思うのですが、「音羽屋!」「成田屋!」という掛け声もまた伝統ではありませんか。それに、歌舞伎座の観客は横断幕もビローンもウチワも掲げないでしょ?(あ、ビローンってのは裁判所前で判決後に出す「無罪」ってやつね)
同じことを大相撲の観客に望むのは無理なのでしょうかね?
せめて升席の観客にはそれを強く望みたいものですが。
で、九州場所でのご当地力士への集団応援についてですが、結果的に見ても贔屓(ひいき)の引き倒しだったんじゃありませんか?
琴奨菊、嘉風、千代鳳、千代丸、松鳳山、豊響、佐田の海…
たまたまかもしれませんけど、千代丸の8-7を例外にことごとく負け越しましたからね。
土俵上の力士の集中力を妨げる可能性を極力排除すべきというのは、プレイヤーズファーストの基本中の基本なのですから、日本相撲協会が重い腰を上げる前に、観客側で自律したいものです。
大鵬と優勝回数で並んだ白鵬ですが、単独記事では相撲内容にあまり触れていなかったので、まずここから入りましょうか。
自分の呼吸で立つことに長けている、いつもの白鵬でした。気を合わせて立とうとする相手力士の心理をよく読み、その気を外すのですね。
後の先?ああ、そんなことも言ってたことありましたっけね。今は悪しき意味で「先の先」を取る相撲。一言で表すならペテンです。
おっと、言葉が悪いですね。アンチですけどこれはいけない。訂正訂正。表裏の裏をかき、虚実の虚を突く、これが抜群だったゆえの14勝1敗でした。
裏を読まれず、虚を突かれずに金星をもぎ取ったのが、ふてぶてしさの増した高安であるという点を他の力士には考えて頂きたい。立合の妙味と裏をかき虚を突く上手さを除けば、もはや白鵬に大横綱たる力はないということを高安戦が示してます。
その意味で、単独トップとなる33回目の優勝は、世間で思われているよりもハードルが高いのではないか?と思ってます。
加えて、史上最多タイの優勝回数と名演説をもってしても、日和見な横審から土俵態度に対して注文を付けられましたからには、来年は大横綱にふさわしい土俵態度が望まれる年になるでしょう。
それがどのように白鵬の相撲に影響するのか、注目したいところです。
鶴竜、またやってくれました。
立合変化そのものはともかく、今場所絶不調の極みだった豪栄道が相手のことで、日を追うごとに整ってきた立合に変調をきたす可能性を犯さなければ勝てない相手ではなかったはず。なのに変化した。そして相撲を崩した。
変化で勝った直後の取材からして、叱られた子供のような情けない顔をして、あー、もー、そんな顔するくらいなら変化すんなよー、と思われた方も多いでしょうが、つまりは本人が心の弱さを自覚していないからこそ、勝負所で変化を選択してしまうのでしょうね。
心の弱さを自覚していれば、絶対に変化などしない。
変化を選択したときの自省の念と周囲の批判に押しつぶされることが分かっていれば、そのことへの恐怖が、変化で勝つことへの誘惑を断ち切りますからね。
鶴竜に求められるのは、心の弱さの克服ではなく、自覚だと思います。
今場所中盤までの相撲と反省の弁を聞く限り、来年早々には改まっていると思うのですが、甘いでしょうか?
日馬富士の11勝、そして横綱同士の相撲で1勝1敗のイーブンというのは、強行出場ゆえの序盤の悲壮感を考えますと上出来も上出来、万万歳でしょう。
序盤の振り返りで「相撲勘が戻れば」としましたが、その戻りが予想以上に早かったのには驚かされました。左上手を求める立合と、突き起こす立合の取捨選択がとてもよろしく、序盤で見せたポカも徐々に無くなり、気がつけばいつもの日馬でした。
ただ、両足首はまだ回復しきれていないことは明白で、四つ相撲を選択しないこと、土俵入りでの一大特徴ある低いせり上がりが今場所はそうでもなかったこと、中盤まで時間前の仕切りで「平蜘蛛」を控えていたこと(私は平蜘蛛は好きじゃないので復活は喜びませんけど)がその証左だと思ってます。
なんとかして回復を果たし、全盛期に近い力を取り戻してほしいものです。
稀勢の里、なんとも不思議な場所でした。
立合の甘さは変わらず終いで、贔屓としてはもどかしいばかりの相撲だったのですが、終わってみれば11勝と大関らしい星を残してます。
これは中盤振り返りで述べたようにラッキーだったのかと問うならば、それでは鶴竜の全勝を崩した相撲を説明できないのですよ。変化で自壊する前の鶴竜ですからね、甘い相撲で勝てるわけがありません。
なにかを試していた九州場所だったのではないか?
もしやそれは白鵬が憧れるも身に付かずにいる「後の先」の相撲なのでは?
などと妄想たくましく働いてしまう罪な今場所の稀勢でした。
でもね、今場所なにかと批判された両足立ちの立合というものが、「後の先」狙いで「先」を取れなかったゆえの両足立ちなら合点がいくのですよ。負けたのが立合の汚い碧山と逸ノ城に白鵬、それと角界一速い立合の日馬富士ですからね。
こういった相手に足が「後の先」を取れるようになったとき、稀勢は進化を遂げるのではないかと思ってます。。
にしても成長スピードがジンワリ過ぎてヤキモキさせる大関です。
贔屓続きで高安に移ります。
まずは殊勲賞おめでとう。白鵬に勝てたことは相当な自信になるでしょう。
土俵上の仕草と表情が、どことなく兄弟子の若の里に似てきたように思えるのは私だけでしょうか?
ともかく、まだ20代前半の力士とは思えない貫禄が身に付きつつあります。
あのポーカーフェイスは買い。ただ、勝利インタビューの際にはアナウンサーかテレビカメラに視線を向けてほしいものです。見えない何かに語ってるみたいで怖いです。A^^;
突き押しの威力と速さと正確さが増しての今場所の成績かと。
四つ相撲への適性は今場所も見せてましたが、引きつけて胸を合わせるのではなく、差して横に食いつく形に徹していたように思えます。
相手が正対しているうちは突き押しての崩しに徹し、崩れたところを深めに差して揺さぶるという形の相撲でしたが、まだまだ発展途上の高安、どの方向に成長していくのか(良い意味で)分かりません。楽しみにしたいと思います。
若の里が十両で9勝6敗と盛り返しました。
35歳の時天空が十両優勝し、40歳の旭天鵬が敢闘賞を受賞する中、田子ノ浦のレジェンドもどっこい元気であります。
久々に田子ノ浦の関取衆が全員勝ち越し。贔屓としては気分よく新年を迎えられます。
レジェンドつながりで旭天鵬。
場所中盤で早々と勝ち越したのに終盤はメロメロで心配させましたが、勝てば敢闘賞の千秋楽は右四つ左上手で深い懐に包み込んでの完勝。もちろん最年長の三賞受賞。白鵬とは異なるベクトルでの記録ラッシュが来年も続きそうです。
それにしても、相撲も体もまったく老けませんね。
30代でヒザにサポーターしていない力士などいないというのに、旭天鵬はタビだけですもんね。引退の「い」の字すら想像できません。
敢闘賞つながりで栃ノ心。
幕内復帰場所を二桁勝ち星の敢闘賞で飾った栃ノ心。
こんな強い力士と対戦させられた今年の春場所と夏場所の幕下の皆さんには深く同情いたします。
幕下の彼ら、1場所15戦ではなく7戦ですからね。
故障明けとはいえ三役経験者が相手ときては1敗は必至。てことは残り6戦で4勝2敗以上の成績を挙げないと負け越しで番付を落とすわけですから。
来場所は豊真将が同じケースになりそうですが、故障による長期休場で幕内から十両を通り越して幕下に陥落した場合、技量審査を行った上で、幕下15枚目格付出しあたりから再開させて、2場所も幕下で過ごさせることのないようにしてほしいものです。
あ、いかん、栃ノ心の話だ。A^^;
左上手ばかりがクローズアップされがちですが、むしろ右の使い方が向上しているように思えます。逆に、左は引きつけに専念し、投げるにしても引きつけてから投げるなど制限をかけ、ヒザへの負担を軽減させているような感があります。
結果として、理に適った相撲を取るようになり、豪快さという名の強引さは影を潜めましたが、右四つ左上手になってワッと観客が沸く相撲へと変貌しました。
来場所は幕内上位。実に楽しみです。
三賞受賞力士3人について語ったので、蒼国来についての単独記事でも少し述べましたが、あらためまして「技能賞該当なし」への苦言を呈します。
今年の6場所のうち5場所までもが「技能賞該当なし」というのは異常事態ではないでしょうか?
「殊勲賞該当なし」は、横綱が関脇以下に負けなければあり得ることでしょう。
「敢闘賞該当なし」も、関脇以下が星を食い合ってどんぐりの背比べ状態になったならば仕方ないかと。
しかし、「技能賞該当なし」には頷けません。
幕内として観るに値する技能を披露した力士は皆無でしたゴメンナサイってことでもない限り、関脇以下で勝ち越した力士を相互比較し、最も技能優秀な力士を表彰すればいい話で、選考を怠っているとしか思えません。
その一方で、技能賞を授与する際には、選考の決め手となった一番とその中の技能についての説明がほしいとも思います。その力士の技芸、相撲の理、観戦のツボを世に知らしめる良い機会となりますし、イメージだけで選考されるわけではないという証拠にもなりますので。
選考方法がおかしいとしか思えませんので、改めて頂きたいと願います。
さて、流れが途切れた。どうしよう。
角番を迎える2人の大関にはかける言葉も見つからない。
じゃあ、その下の関脇にいきましょうか。
同じ8勝7敗でも、逸ノ城のそれはともかく、碧山のそれは評価しません。
今場所は碧山に「突き押しに徹している」という枕詞が頻繁に使われたけれども、使われるたびに疑問符が浮かんだのは私だけでしょうか?
自分の立合が出来ないと突き押すのをあきらめちゃっているように見えました。なんか知らないけど稀勢には自信を持っているみたいでドーンと当たるけど、それを15日間徹していたら、8勝で終わるはずがないのですよ。大いに不満。
対して逸ノ城は入幕2場所目の関脇で勝ち越したのは上出来であり、もっと評価されるべきです。
攻略法の数々が明らかになった来場所はもっと厳しくマークされるでしょうが、場所前に帯状発疹で入院したことによる調整遅れを考慮すれば差し引きゼロかと。しばらくは三役争いでしのぎを削って頂き、成長を待ちたいと思います。緩い立合、棒差しの右、右による抱え込み、読まれ始めた駆け引き、などなど課題は山積してますので。
隠岐の海。
序盤から中盤にかけての充実感と白星先行がウソみたいにしぼみ、なんとか勝ち越した形の隠岐の海であります。
土俵際の詰めを誤り、相手の引きより先に落ちること3番連続。
相撲に勝って勝負に負けたこの3番が白星に転じてたなら敢闘賞でしたから、とてつもなくもったいない場所だったと言えますけれども、つまるところ、足の送りが相変わらずなのですよね。
これまでも猛省すべき機会はあったけれども、悪しき意味で泰然自若な隠岐の海。来場所で上積みが見られることを願っておりますが…。うーん。
宝富士。
8勝という星数以上に得たものが大きかった今場所だと思います。
左差し右四つの相撲を取りきりました。
横綱さえもが注文を付ける昨今、誰が相手であろうと五分に立ち、立合で差せずとも相撲の流れの中で差し勝ち、右上手を引いて寄り切る相撲は良心的存在と言って過言ではないですね。
番付運が悪く、残念ながら来場所の三役昇進の目は無さそうですが、今後もジンワリジンワリと力をつけて番付を上げてほしいものです。
松鳳山。
中日あたりからの猛チャージも及ばず7勝8敗の負け越し。序盤における原因不明のブレーキが悔やまれます。
押し相撲ですからどうしても連勝と連敗は付きものですが、本来は幕内下位で負けが混むような力士ではないはずで、さらには黒星が積み上がってからの吹っ切れたような相撲を考えると、序盤の絶不調がまったく理解できないのですよ。困惑してます。
腰とか脚とか、痛み止めで誤魔化してるような故障を抱えてなければよいのですが、とても心配しております。
場所後に親方が二所ノ関に名跡変更し、一門の頭領になったわけですから、そこの部屋頭たる松鳳山にはまだまだ頑張ってもらわないとね。
まだまだ話は尽きない九州場所でございましたが、切りが無いのでこのへんで。
1年納めの場所としての盛り上がりは嬉しゅうございました。
Twitter相撲部の皆様には、また来年も宜しくお願い申し上げます。
ここのところの一部観客のマナーは酷いですね
呼応するのは恥ずかしい事なのだと思う客を増やす為にも
アナウンスを入れるなりしてほしいです
今 新規のお客さんが急増しているので 悪習に染まらない内に
歌舞伎は 一部の演目を除き 客電が点いたままで上演されます
舞台の役者から見えているんですよ 客が…
後援会やファンクラブ経由でチケットを取っていると あの席は○○屋さんの御贔屓さん?なんて
自分の贔屓役者に恥をかかせる事にもなりかねないので
芝居を妨げるような人は滅多に出ません 嫌われたくないですからね
それと 「音羽屋!」「成田屋!」(「大向う」といいます)は 実は純然たる客ではないのです
一般のお客さんで声を掛ける人もいますけど
「大向う」の会というのがありまして その会員の方達が主に掛けています
インタビューがあったので御興味があれば…
http://www.1101.com/oomukou/
Машаさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。
また、興味深い記事をご紹介くださり、ありがとうございます。
やー、ほぼ日の記事、一気に読んでしまいました。いいですねー、大向うの会。大相撲の溜会ともまた違いますね。粋ですね。
こういう観客側からのアプローチがあるとは思いもよりませんでした。
大相撲にも同様な会を作ればいいのかもしれません。