剣道が左座右起であることの理由[仮説]

# 旧ブログ記事の焼き直しです。
# 不勉強な私による仮説であることを前提としてください。

蹲踞する位置取りが三歩の間である理由は、三歩の間が結界にあたるから。
ということを蹲踞と蹲踞[そんきょとつくばい]では書きました。
するってえと、なぜ立礼の位置取りが九歩の間なのか? という話になります。

で、その理由は左座右起(さざうき:着座は左脚から/起立は右脚から)に帰結すると思っているのですが、では何で左座右起なのか? というところに行き着きまして、今回はこの話になります。


いきなり話を挫きますが、実は小笠原流による武家の礼法は左座右起ではなく、その逆の右座左起(うざさき:着座は右脚から/起立は左脚から)なのです。

また、今は左座右起の講道館柔道も、嘉納先生の昔は右座左起であったものが、昭和18年より他の武道ともども統一する形で左座右起に変更しただけです。

その変更理由については諸説拾えましたが整理できてないのでまた後日。
国際儀礼との兼ね合いから天皇陛下・皇后陛下の立ち位置を旧来とは逆に変更したのも大正・昭和戦前の頃でして、その影響が濃いかと。

おっと話が脱線するところでした。A^^;

柔道だけなく、古流柔術や古流空手、あるいは合気道といった徒手空拳の武術・武道には今現在も右座左起であるケースが少なからず見られることも含めますと、「武道における左座右起は日本に古来からの伝統作法」というのは誤解であることが分かります。私も長いこと既成概念化してました。

古来の伝統という話をするならば、男性は右座左起、女性は左座右起という作法になります。(諸説あり)

これは、仏教や儒教と一緒に5世紀から6世紀にかけて中国から伝わり、道教の道術などを取り入れて日本独自の発展をした陰陽思想によるもので、陰陽思想において陽である男性は陽である左から進み(左進右退)、陰である女性は陰である右から進む(右進左退)という理解になるのです。
(陰陽の意味と、何が陰にあたり何が陽にあたるのかはこちらに詳しく載ってます)

以下、剣道および剣術に限定した話になりますけれども、この陰陽思想に基づきますと、なぜ刀が左差しなのかが理解できます。


臨戦態勢にあるとき、刀は攻撃に用いますから、攻撃=陽=左に差し、戦う意思の無いときは左差しを解き、防御=陰=右に刀を提げるというわけです。

ところが、刀を左腰に差すと右座左起では都合が悪い。
左脚を立て、右足を挫いた姿勢では、左腰に差した刀が抜けませんからね。

というわけで剣術および剣道では左座右起かつ右進左退になるわけですが、それは作法上のことではなく、刀術としての実用性に則したものなのです。

現代剣道においても、作法上の決まり事として立礼⇒帯刀から三歩進むのではなく、帯刀後はいつでも抜ける心積もりで蹲踞に向かうことが肝要だと思います。

また『剣道のときは左座右起、それ以外の場では右座左起』という鵜呑みもダメでして、例えば上席が左にある場合は下手(しもて)にある右脚から座る右座左起、上席が右にある場合は下手にある左脚から座る左座右起となります。

この点の混沌が剣道形を含めた現代剣道にはよく垣間見えるのですが、帯刀時は臨戦態勢なので上席もへったくれもなく左座右起になりますし、戦う意思の無い右手提刀時は上述したように下手の脚から座るべきでしょう。


あれ? 自問になりますけど、じゃあ現代の竹刀剣道における左手提刀というのは何なのでしょう?

臨戦態勢を示す姿勢は帯刀とは異なる姿勢ではありますが、左手に刀があるのでいつでも抜くことができ、戦う意思が無いとも言えません。すごく中途半端な姿勢ですよね?

おそらく左手提刀は、籠手着用では竹刀を持ち替えづらい等の理由による略式なのでしょうけれど、左手提刀ではここまでに述べたことが論理破綻してしまいます。

日本剣道形も「木刀による剣道基本技稽古法」も右手提刀なのですから、剣道の文化的付加価値を高めるためにも竹刀でも右手提刀とすべく、指導要領の改定を本気で考えるべきではないでしょうか?

末端の剣道教室の指導員としましては、その日が来るまで左手提刀で指導しますけれども、左手提刀を肯定できる論には未だ出会ったことがないのですよ。

また、小学生や初心者には理解の及びにくいところなので、まずは左座右起の徹底から指導することになりますね。


以上、私の考える、剣道が左座右起であることの理由[仮説]でした。




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Comments (2)

  1. igossou

    右座左起、左進右退。左座右起、右進左退。これらは全て武器用法による違いです。
    切る武術は左座右起し右進左退しますが、突く差す射る武術は右座左起し左進右退します。
    弓道、銃剣道、槍術などは右座左起し左進右退します。柔道もかっては弓道と同じ作法でした。剣道だけが特異な作法となっていたが軍部が日本を牛耳っていたとき、一斉に同じ作法=動作になるように昭和16年4月に文部省に圧力をかけて「礼法要項」を出させ、柔道も含めて剣道の作法に統一させました。それでも弓道などは武器用法により右座左起・左進右退の礼法は守っています。空手も突く武術なので一番強い右の逆突きが出させる作法であるべきと考えて、私の道場では通常(徒手空拳時)は右座左起・左進右退を守っています。勿論木刀を持ったときは左座右起をさせます。
    上座下起は神道の作法です。上起すると神様に尻を見せることになるので失礼に当たるという考え方です。

    Reply
    1. 甚之介 (Post author)

      igossouさん、コメントありがとうございます。
      遅レスで申し訳ありません。

      記事本文冒頭でも述べましたとおり「不勉強な私による仮説」であります上に、剣道からの視点しか持ち合わせてませんゆえに記事のような内容になっております。

      igossouさんにご教示を頂きましたことを含め、文献や見聞により知識と理解を深めました上で再構築したものを、後日に書けたらいいなぁと思っております。今後とも宜しくお願い申し上げます。

      Reply

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