二段以下の実技審査に思うこと
先の日曜日、下妻地区では剣道一級審査会を開催しました。
あ、初見の方にご説明を申し上げますが、私は下妻地区剣道連盟の事務局を務めさせて頂いておりまして、同審査会の事務方を一手に引き受けております。
茨城県では、一級審査会を茨城県剣道連盟から各地区に委託される形により、地区剣道連盟単位で実施されるのですが、下妻地区では審査項目に「木刀による剣道基本技稽古法」が含まれるようになって以降、毎年12月に実施することにしてます。
歳末で誰もが多忙な中で審査会を実施するのは開催する側としては色々と難しいところもあるのですが、中学入学から剣道を始める人が少なくないことを考えますと、彼らが中2の6月に初段を受審するとして、その裏側にあたる12月に一級審査会を設けることにより「木刀による剣道基本技稽古法」も初段以降の審査項目である日本剣道形も共に充分な習得期間を設けられるのではないか?というわけでの12月の一級審査会なのでした。
さてさて、12月の一級審査会実施とセットで設けている月例稽古会での中学生指導の甲斐があってか「木刀による剣道基本技稽古法」の出来は良かったです。月例稽古会への参加率向上と比例している感があります。切り返しも以下同文でありましょう。
ただ、どうも首をかしげてしまうのが、互角稽古形式で行われる実技審査における内容です。
初二段審査も同様の問題が深刻化している感がありますけど、相掛かり(お互いの掛かり稽古)に酷似した内容になりがちなのですよね。
段位審査をどのように曲解したらあのようになるのか分かりませんが、伝達講習会などの機会にトップダウンで正すべきではないかなぁと私などは思うのですけど。
私なりの認識を示させて頂きますと、まず、三段以下は剣道の基本の習熟度を問われる段位であります。それは、全日本剣道連盟が定める称号・段級位審査規則の第15条に下記のような付与基準が示されていることからも分かります。
1. 初段は、剣道の基本を修習し、技倆良なる者
2. 二段は、剣道の基本を修得し、技倆良好なる者
3. 三段は、剣道の基本を修錬し、技倆優なる者
(称号と段級位のルール|剣道を知る|全日本剣道連盟より引用)
ここで言う「剣道の基本」には様々な要素が含まれますけれども、基本知識として有効打突の定義を理解しているか否かも問われます。
このところ何度も提示しているので食傷気味の方もおられるでしょうが、
有効打突の定義が述べられている剣道試合審判規則第12条をご確認ください。
[有効打突]
第12条
有効打突は、充実した気勢、適正な姿勢をもって、竹刀の打突部で打突部位を刃筋正しく打突し、残心あるものとする。
(剣道の試合・審判のルール|剣道を知る|全日本剣道連盟より引用)
これを分解しますと、
有効打突は下記五つの要件と残心で成立していることが分かるかと思います。
1.充実した気勢
2.適正な姿勢
3.竹刀の打突部
4.打突部位
5.刃筋
6.残心
相掛かりになってしまいますと、上記要件のうち1・2・6が抜けます。
審査のお相手がたまたま自分より弱い相手であれば上記要件の3・4・5を得られるかもしれませんが、それでも半分しか得られてませんので、有効打突の定義を理解しているのか?と疑問に思われてしまいます。
そもそも相掛かりは、気勢・姿勢・残心が乱される中でも打突し続けることで心身を鍛える稽古法ですから、それをやれば上記要件の1・2・6が抜け落ちるのは当然です。
逆に、審査のお相手が全国レベルの強者でまるで歯が立たないという状況でも、充実した気勢(主に気合)と適正な姿勢(主に構え)を伴なった刃筋正しい打突をし、身構えと気構えで残心を示すことは可能であり、これにより最低でも上記要件のうちの1・2・5・6を得られますし、有功打突の起点である「充実した気勢」と同終点である「残心」を示すことによって、有効打突の定義を理解しているということは充分に汲み取ってもらえます。
実技審査に切り返しが含まれている二段以下の審査の場合、上記要件の3・4がその段位に相応しいレベルで出来るのか否かは切り返しによって既に審査済みですから、互角稽古の際には上記要件の3・4を除いた3つの要件と残心を確実に示しさえすれば、審査員も太鼓判で合格判定ができるというものなのです。
それを知らず、教えずに、相掛かりもどきで実技審査に臨ませている指導者がいかんのですけど、昨今の三段以下審査会を見ていると、これを見て「打って打って打ちまくれば良いんだな」と思っても仕方ないかなぁとも思います。 実際、打ちまくった子が合格し、打ちまくられて打てなかったごく少数の子が不合格の憂き目に遭っているのですから。
でもそれは表面上のことであり、正しい切り返しを習得し、互角稽古で有効打突の5要件+残心を示すことが出来さえすれば、1本も入れられなくても初二段は100%合格するのです。それを不合格になってしまっては、受審者本人よりも指導者の知識と力量が疑われることでしょう。