誤審とは?

毎年恒例のことではありますが、全日本剣道選手権を終えるとネット上で審判批判が吹き荒れます。

「審判批判の起きない剣道大会は無い」と言っても過言ではないのですが、全日本選手権は他の大会と比べようもないレベルでメディア露出しますから、試合に対する称賛や喝采あるいは批評が他の大会と比べて桁違いに多く、審判批判の声もそれに比例して桁違いに多くなることは当然でありましょう。

ましてや、YouTubeには全日本剣道連盟公式の動画がUPされておりますし、NHKが生中継したものを録画されている方も多数おられるでしょうから、打突部位を外しているように見える(1方向のカメラに絶対は無い)映像を元に審判批判が増えることもまた当然でありましょう。

しかし、その審判批判は妥当なのでありましょうか?

私が観た限り(3回戦以降)では、批判対象になりそうなのは準々決勝で「二本目!」とすべきところを「勝負あり」としてしまったことくらいなもので、批判するどころか常に適切な立ち位置を維持する先読みを利した移動に感心するばかりでしたよ。

見てください、この二等辺三角形の素晴らしさ!

全日本選手権での審判立ち位置

全日本選手権での審判立ち位置

この立ち位置の八段範士が3人揃って1本とした判定に異を唱えるような蛮勇、私は持ち合わせておりませんけどね。


ここで、剣道試合審判規則第12条をおさらいしておきましょう。

[有効打突]
第12条
有効打突は、充実した気勢、適正な姿勢をもって、竹刀の打突部で打突部位を刃筋正しく打突し、残心あるものとする。

この第12条では有効打突=1本の要件が記されており、この要件を1つでも欠いた打突は1本として認められないわけです。

で、今は映像技術が発達してますから、竹刀が打突部位を外していることが確認できる画像や動画を元に「あれは誤審だ」となるわけですけれども、ちょいと待って頂きたい。

まず、竹刀の剣先の動きは人間の動体視力で捉えられるものではありません。これは全日本選手権のみならず、少年剣道でも全国レベルとなると動体視力を頼りに判定することなど不可能です。

や、例えばですね、一本をリプレイで見るならば動体視力で追えますよ。

でもあれは、これから何が起きるか判っているから追えるのであって、0.01秒単位での打突差異を判定しなければならない機会がいつ訪れるのか、それが赤の選手なのか白の選手なのか、メンなのかコテなのかドウなのかツキなのか、全く分からない中で動体視力を頼りに判定することは不可能。

打突部位×2人=8点フォーカス可能な複眼を持つ怪人なら話は別ですけどね。だから誤審は仕方ない…とは書かないので、もう少しお付き合いください。


では、どうやって判定しているのかといえば、第12条そのものですよ。

一本は打突という”点”ではなく、「充実した気勢」を起点、「残心」を終点とする”線”で判定するものなのですから、審判員は己の持つ知見を総動員して両選手の心身の動きを先読みし、打突を待ち構えて判定しています。

すなわち「打って勝つ」ではなく「勝って打つ」を判定しているわけでして、「勝って打つ」であれば「打つ」が打突部位を少々外していても「勝ち」は揺るがないのですよ。

そして打突ですが、第12条には物理的接触の必要性、あるいは打つ強さ、といったものは明示されておりません。これが明示されてしまうならば、日本剣道形の三本目は成立しないことになりやしませんか?

たしかに打突は一本の要件の中でも重要な要件の1つではありますが、全てではないということです。

つまるところ、審判員が打突以外の要件を含めて総合的に判定して一本としたものが一本であるということでありますから、その意味では誤審など存在しないのです。

それでも誤審と言うのならば、代替案をお示し頂きたいものですけれども、納得できる代替案というものを見聞きしたことがないのですよ。
もしあるならば、コメントとしてお書き込み頂けますなら拝読したいと思います。


2年前の世界剣道選手権イタリア大会をUstreamで観ておりましたときに、審判員が「Sensei」とアナウンスされていたことを、ふと思い起こしました。

そうです。剣道の審判員は審判である前に師の位に立つ者なのです。

ネット上では審判員を口汚く罵る輩が散見されますけれども、審判員が「Sensei」であることをチラとでも脳裏に浮かぶならばもう少し言葉を選ぶでしょうに、それを為さないということは…

来年の世界剣道選手権東京大会、少々心配になってまいりました。


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