非正規雇用今昔

親父殿の遺品を整理しながらふと思ったこと。

昨秋に亡くなった親父殿の初彼岸を迎える前に仏間を作ろう、そのついでに母上様の部屋を1階に、私ら夫婦の部屋を2階にと交代しようってんで、押し入れ深くに眠っていたものも何もかも引き出しました。

すると親父殿の遺品も含めて色々と懐かしい品々が出てきまして、その中に親父殿の職場の写真がありました。


親父殿は製本の職人で、中卒後から正社員雇用されてました。
そのおかげで母上様の年金も私の扶養に入れないほど手厚いのですが、生前の親父殿からは渡りの職人を羨む話を何度か聞いたことがありました。

渡りというのは、期間限定の臨時雇用としてあちこちの製本会社で働く職人のこと。

どの製本会社にも業務量の波というものがありますから、広範かつ高度な技能を持つ職人は、業務量の波の高いところを渡り歩く方が稼げますし、雇用する側からも重宝されるのですね。

ただし、自営業扱いですから製本組合の健康保険も厚生年金も未加入。
その分が給金に積み増された上に、高い技能に対する評価としても積み増された渡り職人の給金は、若かりし親父殿の正社員給与の倍に近いものがあり、「俺も渡りの職人になろうか」と思うこと度々であったそうですよ。

それでも妻子を抱える身としては安定の正社員雇用から離れられなかったみたいですが。


次に、私の話。

現在、私は某大手企業の子会社でSEとして働いておりますが、前職では業務請負の会社に在籍しておりました。

業務請負の会社と言われてもピンと来ないかと思いますが、技術者の人材派遣が合法ではなかった時代に、”業務”を請け負う契約で技術者を派遣していた会社のことです。

同じ抜け道で同じグループ会社が技能工の派遣を行い、そのアコギなやり方が問題視されて派遣問題へと発展するのですが、技術者の業務請負は実にWin-Winの関係でありました。

親父殿の話に出てきた「渡りの職人」のような高い技術力は無いにしても、いつでも契約を切れる不安定性や、正社員が享受する福利厚生が無い分を、雇用側である大手企業は契約金に積み増してくれましたから、派遣側である請負会社が積み増し分から間接経費と利益分を引いても、そう悪くない給与が技術者に支払われておりました。

正直な話、業務請負時代の年収の方が今より高いくらいです。


で、現在の話になりますが、親父殿の話と私の経験から考えますと、なぜ派遣を含む非正規雇用者が低賃金なのか、不思議な思いがします。

非正規ゆえの雇用の不安定性を強いるのであるならば、それとの等価交換として賃金が積み増されるというのが、親父殿や私が体験してきた道理であります。

アルバイトやパートは短時間労働などで時間に融通を利かせられる、その代わりの低賃金であったはずです。

しかし今は、正社員と同じ拘束時間、同じ仕事、同じ責任で、だけど非正規だから低賃金で、おまけにいつでも首を切れるといいます。

おそらくは労働力の需要と供給の問題で「オマエの替わりはいくらでもいる」ということなのだろうことは分かるのですが、どこか割り切れないものを感じます。


今年の春はキャベツが豊作でとても安かったです。
道の駅にて1玉100円で売っていたのを覚えてます。

キャベツが1玉100円というのは消費者としては嬉しいものですが、農家からすれば100玉収穫しても1万円にしかならないのですから、そこからお店の利益、輸送費、段ボール代、更には畑にかかる諸経費を引いたら、農家に利益が残るとはとても思えない価格です。

しかしながら、消費者や売店側から「いや、100円では申し訳ないから150円で買いますよ。それでも平年値より安くて嬉しい。」みたいな話は出てこないわけでして。

非正規労働者の低賃金もこれと同じ論理が働いているのでしょうね。

ならば世代別人口の逆ピラミッドが効いて労働人口が少なくなる今後は、何もせずとも非正規雇用問題は解消されるかもしれません。不作のときのキャベツが1球300円にも400円にも化けるのと同じ理由でね。

ですからむしろ、労働賃金がストップ高になるのを防ぐ意味で、同一労働同一賃金制の導入を進めるべきなのですよ。
あ、もちろん皮肉を込めての提言です。:-P




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Comments (2)

  1. kanimimi

     土建国保とか船員保険的なシステムがあって
    非正規雇用の方々も[一人親方]的な感じであれば…

     正規雇用だったら、
    色々な状況で休業した時にも守られていますし、
    業務が無くなっても解雇される事はない。
    そういった意味で、
    リスキーな立場にある訳ですから
    それなりの報酬はあるべきかと思うのですが…。

     終身雇用制度がこじれてきて、
    非正規(渡り)はあくまでもピンチヒッターで
    会社と社員(御恩と奉公)のカテゴリーから
    はみ出してしまったのかもしれませんねぇ。

     私自身は、
    ホールディングスの社員で勤務会社に出向している

    という労働形態なのですが、
    ファミリー社員(会社採用)の方々と
    色々と待遇が異なります。

     ‥但し、
    出向社員である以上。
    ※印通勤可能な事業所間であれば、
    『金曜日に「チミチミ~来週月曜日から○○勤務」だから頑張って(笑)』
    ※転居を伴う場合は1か月前
    って言われても拒否はできない勤務形態ではあります。
    まぁ、そんな事は実際には不可能ですが(苦)。

     しかし、
    ファミリーの方々は
    勤務地が事業撤退したら…なのですよね。
    求められている働き方が違うとはいえなのです。

     働き方の多様化とか言っていますが
    なかなかに難しい世の中となりました。
    格差云々という事もさることながら、
    良い学校を出てよい会社に入りっていう
    [あめりかないず]された感じになった気がします。

     日本経済が斜陽なので
    企業が生き残るために必死なのはわかりますが、
    社員のための会社 会社のための社会 ではなく
    会社のための社会 社会のための社員 って感じなのでしょうか。

      それじゃぁ モノ 売れないし
      売れないから 景気も良くなるわきゃねーよ

    って気もします。
    そうしたら、
    賃金も上がらないよなぁ…。(悲)

    Reply
    1. 甚之介 (Post author)

      kanimimiさん、お久しぶりです(^^)
      ようやくブログ再開しましたので、今後とも宜しくお願い申し上げます。

      さてもさても、働き甲斐ってやつが大事ですよね。
      もちろん仕事そのものの社会的意義や面白さだけが働き甲斐じゃなくって、お給料や福利厚生なんかも働き甲斐の中で大きなウエイトを占めるのですが、そこがあまりにもおざなりにされてる気がします。

      Reply

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