平成30年九州場所総括

遅くなりましたが九州場所の総括。
業務が忙しかったこともありますが、なかなか評価の難しい場所で筆が進みませんでした。
いつもにも増して散文調となります旨、あらかじめ陳謝いたします。<(_ _)>


高安からいきます。

3横綱1大関が休場し、栃ノ心も勝ち越すのがやっとの中、大関の名に恥じない相撲内容と星数を積み上げたことは高く評価しております。

七日目、竜電に粘られての黒星を喫した際に腰の不安を露呈するなど、フィジカル面ではけして万全ではなかったと思いますし、立合の体当たりで相手を弾く場面も少ない中、突き、押し、寄り、投げの選択が的確であったがゆえの優勝次点だったと言えます。

また、十二日目の栃ノ心戦で見せた右四つへの適応も今後の楽しみになるかと。
当人のコメントからもその自覚がある様子ですが、バランスは左四つよりも右四つの方が良いようです。
上手くすると、投げも寄りも左右とも自在に繰り出せる上に、地の型である押し相撲もできるオールラウンダーに進化するのではないか?なーんて思ってます。

ま、当人は優勝を逃したことを悔しく思っているでしょうが、夏場所全休後は名古屋で9勝、秋に11勝ときて九州で12勝の優勝次点という上昇傾向の途上であることは明らかですから、フィジカル面の不安を解消できたならば、年明け初場所は堂々たる優勝候補筆頭と言えるでしょう。


続いて、初優勝の貴景勝。

新三役小結での優勝とその相撲内容は、お見事としか言いようがありません。
とかく押し相撲はツラ相撲になりがちで、爆発的連勝とそれが嘘のような沈黙の連敗が十五日の間に交錯するのが通常ですが、落ちたのは七日目の御嶽海戦と十四日目の高安戦の2番のみで、それも事故の類いのものでしたし、立合で押し込まれたのは千秋楽の錦木戦の1番のみでした。

十五日間を通して好調をキープできた押し相撲を久し振りに見ました。
押し相撲の優勝は2003年春場所の千代大海まで遡ることになります。

左の叩きが印象的。
初日の稀勢の里を筆頭に、豪栄道、魁聖、栃煌山、玉鷲といった重い力士を左の一閃で勝負を付けました。

その左叩き、つまりは引きを有効にしているのが、立合における爆発的な突き押しになりますが、これについては七日目の御嶽海と千秋楽の錦木が対応策を示しております。
技術的には両者に若干の違いはある様子ですが、つまるところ立合における貴景勝の爆発力を上に逃がすことによって弾かれずに体を寄せるというものです。

誰にでも出来る芸当ではありませんが、同じ方向性で対応策を練ることは他の力士にも可能だと思います。今場所はダークホースだった貴景勝が、研究され尽くした上でなお活躍を得ることが出来るか否か、年明けの初場所に問われます。

あ、貴景勝の元師匠である名前を言ってはいけないあの人については一言だけ。貴景勝を手放し、千賀ノ浦に預けたことだけは評価します。

多分ですけどね、彼なりに一所懸命に力士育成に励んでいたときは素質ある新弟子達がバタバタと潰れていき、彼の力の矛先が一門離脱してまでの理事選など外に向いて放任傾向が増したら4人もの関取が短期間のうちに誕生したという皮肉な結果を得て、名前を言ってはいけないあの人は内部崩壊してしまったのではないかなぁ?なんて思うのです。

この件に関してはデータ解析という名のお遊びを経て後日に記事化します。


さーて、ここからが難しい。
と、言いますのは、松鳳山、妙義龍、栃煌山、錦木、竜電、北勝富士、嘉風といったあたりの力士による印象的な相撲内容を軸に褒める方向で語りたいのですけど、松鳳山が唯一の二桁10勝である以外、妙義龍、栃煌山、錦木は8勝7敗のギリギリ勝ち越しですし、竜電、北勝富士、嘉風などは負け越しているのですよ。

今場所は阿武咲が敢闘賞を受賞しているのですが、業務多忙のため幕内上位しか追えておらず、その幕内上位の各力士が食い合っての結果なのでしょうが、これほどまでに相撲内容による印象と星数が合致しないのも珍しいことです。


とりま松鳳山から。
ご当地福岡県出身ということもあって大声援が送られる中、いつもにも増して闘志溢れる相撲を取り続けました。とくに中日以降、千代の国、阿武咲、千代大龍、栃煌山、そして千秋楽の栃ノ心との相撲は攻防の入れ替わりが激しい相撲を展開し、心を躍らされる思いでした。強面の34歳、まだまだ元気です。


妙義龍が東前頭筆頭で千秋楽勝ち越しを得ましたので、途中に十両への陥落を含む3年ぶりの帰り三役がほぼ確定。
理事長も述べておりましたが、竜電、妙義龍、栃ノ心、そして妙義龍といった、ケガに泣かされて大きく番付を落としても懸命に頑張れば戻ってこれるんだという良き実例として、ケガに苦しむ他の力士の大いなる励みになります。

ただ、やはりケガする以前と比べますと、非力であることは否めません。
それをカバーするための低い姿勢と早い展開の相撲を工夫しており唸らされますが、まだ軽さが目立ちます。より円熟した相撲へと進化した、まだ見ぬ妙義龍の相撲が観られることを期待してます。


栃煌山が序盤を無傷で通過したときは、これはもしかしたらもしかするぞ、などと思ったものですが、あっという間に貯金を叩いて終わってみれば8勝7敗とは、いまだに信じられない思いでおります。

中盤以降で負けが込んだことも一因かと思うのですが、ただでさえ手前勝手なルーティンが目立つ立合の仕切りが一層入念かつスローモーになって、かえって立合の機を得られず苦戦を呼び込む上に、観ているこちらもイライラして仕方ありませんでした。
相手力士の側にばかり合わせることを強いる立合であり、改善を強く望みます。


錦木の腕力は今場所植え付けられた強烈な印象の一つです。
差している側の腕を巻き替えられたとき、それに乗じて抱えて寄って出るか、巻き替え返すかのどちらかだと思い込んでおりましたが、錦木は巻き返されるや腕を絞っての外四つや閂に極めるなどして対応するのですよね。

外四つ、閂、などと聞くと、旭天鵬、照ノ富士、栃ノ心、琴欧洲などの巨漢で豪腕なイメージを持つ力士の姿が浮かぶのですが、錦木は185cmの150kgと幕内力士としてはやや大きい程度の体ですから、その点でも特筆すべき技芸と言えます。


竜電の相撲は実に面白かった。やっぱり白眉は七日目の高安戦ですよね。
粘って粘って粘りまくって自分の形に持っていく。その執念もさることながら、それを可能にする稽古の質と量が違うのでしょうね。
自己最高位の西前頭3枚目ながら、6勝という白星の数はイメージと合致しませんが、星取表を見てみましたら中盤と終盤の十日間は俗に言うヌケヌケの5勝5敗だったのですね。
上位でも闘える自信は持つことが出来たのではないかと思います。きっとすぐに上位へ戻ってこれるでしょう。


北勝富士が西前頭筆頭で7勝8敗と負け越したわけですが、九日目からの5連敗が痛かったですね。
序盤と中盤は右突き左おっつけて横から押す立合で気持ちよく押し勝っていたのですが、その立合に対し、相手力士から観て北勝富士が右に展開する前提でその方向へ押し込みにかかるという対策を妙義龍(九日目)が示し、その翌日は貴景勝、翌々日は錦木に右へ倣えされて3連敗を喫すると、付け焼き刃的に左前褌狙いの立合に変更したものの効果を得ず、かえって連敗を5に伸ばしてしまいました。

立合で押せなくなった理由は、無意識のうちに楽して勝とうとして左おっつけて展開する角度が拡がって変化に近い形となり、前への圧力が減圧したことによって相手力士の押しを呼び込んでしまっていたのですね。

それに気付いたかのように十四日目の竜電戦では真っ直ぐしっかり当たってからの右突き左おっつけで押し勝ち、千秋楽の隆の勝戦でも同様に圧倒して勝利。しかし時遅く7勝8敗。

大反省の今場所でありましょうが、その反省に立っての初場所は期待しても良さそうです。番付も1枚落ちるか落ちないかという所でしょうから初場所も役力士総当り。期待しましょう。


さて、苦言も述べておきましょう。

まず立合の乱れ。立合不成立、待った、今場所は多過ぎました。
しかしながら、反省すべきは力士のみではなく、審判部も大いに反省して頂きたい。

と言いますのは、正面審判に誰が座るかによって立合判定が変わることが目に付くのですよ。

審判部長である益荒雄の阿武松は判定が甘く、手着き不十分かつ合気もないのに止めなかった相撲が何番もありました。例としては十日目の貴景勝-北勝富士。

同副部長である武双山の藤島は判定が厳しく、手着き不十分であれば躊躇なく止めます。例としては千秋楽の松鳳山-栃ノ心。

例に挙げた2番が正面審判を入れ替わる形で行われていたら良かったのに…ということではなく、正面審判や行司によって立合判定がブレてしまうことが大問題であり、そのことへの疑心暗鬼が立合不成立を誘発する一因になっていると思うのです。

個人的には藤島の判定レベルを是としたいものですが、いずれにせよ、まず審判部が範を示さなければ始まらないでしょう。


もっとも声を大にして言いたい不満は、技能賞の「該当者なし」についてです。

貴景勝の節で「十五日間を通して好調をキープできた押し相撲を久し振りに見ました。」と書きましたが、十五日間を通して好調をキープできた押し相撲は至高の技能である筈です。これに技能賞を与えないというのでは、もはや選考方法がおかしいとしか言い様がありません。

三賞全て該当者なしとした先場所も同じことを書いたと思うのですが、敢闘賞と技能賞を該当者なしとすることは、
「敢闘精神を発揮した力士も特段の技能を発揮した力士もございませんでした」
と言っているのも同然であり、これほど力士と観客を馬鹿にした話はありません。

三賞選考方法と基準を改めるべきです。


年が明ければ平成最後の初場所。
もしかしたら今上天皇皇后両陛下による最後の天覧相撲になるかもしれません。
稀勢の里を筆頭に休場した役力士達が土俵に戻り、今場所活躍した新進気鋭の力士達とぶつかり合う最高の場所になることを祈念して、筆を置きます。

九州場所、楽しゅうございました。
力士のみなさま、観客のみなさま、ありがとうございました。<(_ _)>




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Comments (2)

  1. たけ

    毎回楽しく拝見しております。個性豊かな小兵力士が引っ掻きまわす十両の優勝争いに加え、錦木の挟み込んで制圧するかいな力、我慢の竜雷、そしてなんといっても貴景勝と、幕内も上位が不在とはいえ若手の躍進著しい場所でした!
    ところで、押し相撲の最高優勝は千代大海まで遡るというご意見でしたが、押し相撲の優勝に御嶽海を数えないのはなぜでしょうか。

    と言いますのも、私も御嶽海の取り口、まわしを欲しがらずに刺して寄る相撲を、単なる押し相撲と分類するのにかねがね違和感を感じていました。普通押し相撲といえば良くも悪くも立会い勝負!きっぷはいいけど、はまれば強いが負け出すと止まらないってイメージ。でも御嶽海は違うんですよね。相手を研究して、理詰めで寄り、理詰めで引く。まったく相撲が違うんです。ただなぜか共通するのは、負け出すと止まらないとこ。。。

    なぜ、御嶽海が普通の押し相撲ではないのか、というかそもそも押し相撲じゃないのか、私はうまく説明できないんです。よろしかったらご意見を伺いたいです。

    いまは大相撲をめぐるいやなニュースばかりで辟易です。つい感情的になりがちですが、ここのブログ主さまの冷静なご意見をいつも参考にしております。どうぞこのスタンスで長く続けてください。

    Reply
    1. 甚之介 (Post author)

      たけさん、コメントありがとうございます♪
       
      >ところで、押し相撲の最高優勝は千代大海まで遡るというご意見でしたが、押し相撲の優勝に御嶽海を数えないのはなぜでしょうか。
       
      あ!
      すいません、単純に含み忘れてました。A^^;

      言い訳になってしまいますが、御嶽海は他の押し相撲(貴景勝、玉鷲、千代大龍、北勝富士など)と比較すると馬力で押すタイプではないので、つい含み忘れてしまいました。贔屓の方には申し訳ないです。
       
      御嶽海は相手の力の出ないところを検知するセンスの良さと体を寄せる早さが彼ならではの武芸ですよね。もちろん押し相撲に分類すべき力士だと思います。
       
      >どうぞこのスタンスで長く続けてください。
       
      ありがとうございます。m(_ _)m

      Reply

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