社会貢献度の低い報道への不満

大相撲春巡業の舞鶴場所にて起きた事故からの考察その1として、報道について述べたいと思います。

この事故につきましては大騒動に発展しましたので、皆様の耳目にも触れたものと思いますが、まずは概要を述べておきます。


大相撲春巡業の舞鶴場所にて、舞鶴市長が土俵上で挨拶中に倒れられました。
観客として居合わせた女性の医療関係者が土俵に上がり、心肺蘇生法の手順に則り胸骨圧迫による心臓マッサージを施します。
心マは救急隊が到着するまで継続する必要があり、1人では体力が持ちませんので、さらに2~3人の女性が心マの交替を買って出ようと土俵に上る中、「女性は土俵から降りてください」との場内アナウンス。
(この点が後日に最大の話題になります)
間もなく救急隊が到着し、舞鶴市長は救急搬送されました。
舞鶴市長が倒れたのはクモ膜下出血によるものでしたが、適切な初期対応のおかげで一命を取り留めることを得ました。


この事故は多くの示唆に富んでおり、多種多様な議論を巻き起こしました。

○大相撲における女人禁制の是否
○日本相撲協会の失態と不備
○催事で用意されるべき救急体制

話題の大きかったものから順に並べましたが、以上の3点が主な論点と言えるかと思います。

しかしながら、その報道が人々の話題に登ることによって生じる社会貢献度で比較するならば、上で挙げた論点の順序は真逆になります。


クモ膜下出血のみならず、心筋梗塞や呼吸器系の発作等の急性発症により自分や周辺の人が倒れるという事態は、いつでもどこでも起き得ることです。

今回の事故をきっかけにして、大相撲興業を含む各種イベント会場はもちろんのこと、職場や学校や公共施設における救急体制の見直しや、救急措置に対する一般市民の理解が高まるならば、より多くの命が舞鶴市長と同様に助けられることになるでしょう。

このケーススタディの波及範囲は全国規模となります。


一方、日本相撲協会の失態や不備、ことにあの場内アナウンスは不適切の最たるものであり、批判は免れないのですが、批判が高まるあまりにこの事故が大相撲興業固有の問題であるかのような認識を世間に与えてしまい、前述したようなケーススタディ効果を薄くしてしまいかねません。

仮に、日本相撲協会への批判が集まることにより、大相撲の様々な問題点が改善されたとしても、その益は大相撲関係の範囲内にしか及ばず、その規模はごくごく限定的なものでしょう。


大相撲における女人禁制などは更にその一部分でしかなく、男尊女卑が著しかった時代ならばそのインパクトは大きなものがありましょうけど、男女平等の行き過ぎによる弊害さえ論じられる現代で、大相撲の土俵に女性も上れるようになったからといって、世間には何の影響も与えないでしょう。


でも、報道情報量の大部分を占めるのは「女性は土俵から降りてください」であり、更には「ちびっ子相撲」の女児不参加問題によって国政での諸問題と同量かそれ以上のボリュームで報じられてます。

これに対し、大相撲巡業における救急体制の不備を問う報道さえもその数は少なく、身近の救急体制の見直しを問いかけたり、救急措置の現場に遭遇した時の対処方法を解説するような記事となると、ほとんど見当たらないという状況です。

報道もビジネスですから、視聴者や読者の興味を引く論点に集中してしまうことは仕方ないとは思うのですが、近年はその許容範囲を超えてます。


印象操作も目立ちました。

YouTube等でご確認を頂けますが、アナウンスは「降りてください」です。
しかし、記事のタイトルや記事中で「降りろ」「降りて」も多用されてます。

無論、語調が丁寧だからと言って許容の余地があるアナウンスではありませんが、「降りてください」と「降りろ」「降りて」では受け手の印象が違います。

「降りろ」は事実をあきらかに曲げてます。
「降りて」は切り取りによって語調を強めてます。

これは珍しいことではなく、政治家や芸能人のコメントを報じる際に常用されている技法であり、報じる側は字数制限や簡略表現を言い訳にするでしょうが、その目的は印象操作に他なりません。

動画配信や当事者の情報提供によって誰でもニュースソースを確認できる現代であるにも関わらず、このように姑息な印象操作を行う厚顔無恥を今後も重ねるのならば、信用失墜という形で跳ね返ることでしょう。

トランプ大統領のTwitterが代表例になりますけれども、政治家や芸能人が自ら情報発信するのは印象操作に対する自己防衛手段であり、それを望む受け手が増え続けているという現実を直視すべきです。

その意味では、日本相撲協会にはもっと上手に情報発信してほしいものなのですが。orz


Comments (2)

  1. shin2

    倒れた舞鶴市長が現役の医師であったため「自分で体調が悪いのはわかるだろう」というネットの書き込みも散見された。クモ膜下出血で倒れた市長を叩いてどうするつもりか。
    また舞鶴の翌日の宝塚巡業で、女性市長が土俵で挨拶をしたい旨申し入れたが、拒否された。
    拒否されることを見越して、土俵で挨拶したい旨申し入れたのではないか。ご自身のイデオロギーを表明するために、大相撲が利用された疑いが払拭できない。
    この宝塚市長が、福島瑞穂氏や辻元清美氏と同じ「土井たか子一門」出身であることから「なんで宝塚市民はこんなヤツを市長に選んだんだ」とうとう宝塚市が炎上してしまった。

    報道は「炎上」の味を占めてしまった。炎上は美味しい、と知ってしまった。
    だれも煽りこそすれ、消火しようとはしない。野次馬で商売している。
    消火するのは日本相撲協会だろうが、全く手段を知らないに等しい。
    「女が土俵に上がったらダメ!アカンもんはアカン!」で押し通せる「無理ヘンに拳骨」時代は終わった。それは日馬富士や貴公俊の事件で理解した、と思っていたのだが。

    Reply
    1. 甚之介 (Post author)

      コメントありがとうございます。_(._.)_
       
      日本相撲協会に一番必要なのは理論武装ですよね。
      日本史の専門家も引き入れ、相撲博物館を発展させて、協会内に相撲史を研究する部門を作るべきかと。

      Reply

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