貴乃花騒動

さて、本場所開催中は黙っていた分、たっぷり述べますよ。

九州場所前から今日までの騒動は、もう貴乃花騒動と言ってよいですね。

これについて「貴の乱」と名付けた雑誌が刊行されて話題になりました。
私は読んでいないのですが「貴の乱」とは上手いなぁと思いましたね。

と、言いますのは、加藤の乱に似ているのですよ。

当時の小渕首相が在任中に急逝し、継承する形で森氏が首相就任、その継承過程の不透明さに異を唱えての加藤の乱でした。

当時の北の湖理事長が在任中に急逝し、継承する形で八角親方が理事長就任、その継承過程の不透明さに異を唱えての貴の乱…というようにピタリと嵌るのですね。

通じるのはアラフィフ以上ですけど、やー、上手いです。

ただ、加藤氏には山崎氏という盟友と、谷垣氏という忠実な腹心がいたのですが、貴乃花には盟友もいなければ信頼に足る腹心もおりません。

また、メディアを味方につけた点でも同じですが、加藤氏が某巨大掲示板の政治厨をも味方につけたのに対し、貴乃花はTwitter #sumo部を敵に回したという点でも真逆です。

「貴の乱」が刊行された2月の時点で上記の状況はすでに固まっており、失敗した加藤の乱よりも更に形勢の悪い貴の乱が成功するわけもなく、どのように幕引きするかを考えるべきでした。

なのに、貴乃花はテレビ番組に無断で出演して独白する、そして内閣府に告発状を提出する、と、踏み込んでしまった。

誰かの入れ知恵なのか、貴乃花が勢いに任せてやってしまったのか、それはともかくとして悪手であり、文字通りの一人相撲。

着地点が誰にも見えなくなったところに弟子による付け人暴行事件ってのは、実のところ、貴乃花にとって救いの手になったのかもしれません。


ここまで述べたように、私は貴乃花が暴行事件を政治利用したと思っており、今回、貴乃花が内閣府に提出した告発状を取り下げる意向を示したことで、それは確信に至りました。

一番の被害者は貴ノ岩ですが、一番の加害者が日馬富士とは言えません。
暴行事件を政治利用した貴乃花が一番の加害者です。

貴ノ岩を守るためと言いながら、外部との連絡手段さえも断って軟禁同様の状況下に置いたことは貴ノ岩の心身を衰弱せしめましたし、日馬富士の刑事処分を待つような悠長なことをせず、示談に応じて当事者間の解決を確定した上で、初場所の番付発表前に相撲協会と談判すれば、貴ノ岩の番付降格は幕尻で止まったことでしょう。

そう、相撲協会の理事で巡業部長という要職にあった貴乃花が、”貴ノ岩のために”その政治力を行使すれば万事よかったのに、理事選を前にして八角理事長体制を瓦解させるために貴ノ岩を政治利用したのです。

どのような崇高な理想があろうとも、たとえ相撲協会が腐敗していようとも、もしかしたらそのつもりはなかったにしても、師匠としてやってはいけないことを貴乃花はやってしまった。

少なくとも貴乃花親方以外の部屋持ち親方はそう捉えてます。
一門内にさえそっぽ向かれている孤立はそれゆえのことであり、信頼回復への道のりは険しいなんてもんじゃないでしょう。


貴公俊が付け人を暴行した件については、警察に被害届を出すべきだとは言いませんが、まずは被害者と加害者の双方から聞き取りした内容を情報公開すべきですし、貴公俊が「部屋に帰ったら覚えてろ!」と言ったことから暴力の日常性が疑われますので、部屋の力士全員からの聞き取り調査が必要でしょう。

また、暴力排除のための講習会を欠席した貴乃花部屋の力士が暴行事件を起こしたのですから、貴乃花部屋の力士は同等かそれ以上の講習を受講しなければなりません。

これらを貴乃花自らが提起するならば信頼回復の起点になりうるのですが、さて、どんなもんですかね?


貴公俊への処分は1場所出場停止になりました。

これは注目しておりました。
なぜなら、日馬富士が被害届を出されずにいたらどの程度の処分で済んでいたのか、ある程度の目安になるからです。

もちろん、ベテラン横綱と新十両を同一視することはできませんし、その他いろいろ状況が異なりますので、目安にしかなりませんけれども、ふむ、1場所出場停止ですか。

日馬富士、示談が成立して被害届が取り下げられていたら、2場所出場停止+減給あたりの処分となり、引退はせずとも済んだのではないかなぁ。


貴乃花は2階級降格で平の年寄となりました。妥当でしょう。

暴行事件における監督不行き届きだけじゃなく、場所中の職務怠慢の件もありますし、テレビ番組への無断出演の件もあります。

告発状を取り下げるは良いけれど、それによって虚偽の告発をしたと見做され、この件でも処分を受ける可能性が出ていましたが、この点への言及はありませんでしたね。


八角理事長については責任論、つまりは辞めろという意見がメディアを中心に目立つわけですが、私は辞める必要は無いと思いますし、続投にも概ね賛成。

一連の不祥事の積み重なりを軽く見るつもりはありませんが、過去の理事長辞任に至った案件ほどには重くはないと思います。そもそも、辞めるだけが責任の取り方ではないでしょう。

火中の栗を拾える人が他にいないという実情も含め、八角理事長が辞めるという選択肢を取らなかったことに安堵してます。

ただ、日本相撲協会の理事長職に世間が期待するほどのリーダーシップを取り得る職権があるのかといえば、無いのです。

過去に、北の湖や栃錦の春日野が強いリーダーシップを発揮できたのは、1つには自らのカリスマ性によるものですが、そのベースとして部屋と親方の数が最も多い出羽海一門の出身であるというところが大きいです。

ガチンコの選挙で理事と理事長が決まる日本相撲協会において、部屋と親方の数で他の一門を圧倒する出羽海一門が後ろ盾にあるのとないのとでは、その指導力に大きな差が出るのは当然です。

双葉山の時津風は別格としても、若乃花1の二子山でさえも、前任者(栃錦の春日野)からの禅譲とサポートが無ければ現役時代の土俵の鬼そのままの強権的なリーダーシップは発揮し得なかったでしょう。

小所帯の高砂一門出身である北勝海の八角に同じことをやれと言うのは無理ですので、調整型のリーダーとして愚直に真面目に地道にやるしかありません。

それゆえのスピード感の欠如は責められるでしょうが、忍の一字。
尾車の琴風を参謀に、両国の境川、栃乃和歌の春日野とスクラムを組んで、この難局を乗り切ってほしいと願ってます。

それと、外部に人材を求めるべきとの声も聞きますが、どのように選任すべきかは難しいものがあります。

ビジネスライクな変革も、スポーツライクな変革も、その必要性はある程度認めるのですが、土俵から遠い人ほど大相撲そのものを台無しにしてしまいかねない方策を平気な顔で言葉にするのですよ。

第三者的視点と、経済観念と、相撲を愛する心を併せ持つ外部の方ということで、維持員、つまりは溜会の代表に評議員なり外部理事なりに就任して頂くってのはいかがなものかなぁとは、私の思いつき。


元審判部長である貴乃花の審判部起用は意外でした。

名ばかりの閑職に任命してほとぼりが冷めるのを待つか、理事長付きにして直接に再教育を施すかのどちらかではないかと予想していましたので、驚きましたね。

一般企業に例えますと、専務取締役が取締役を解任された元営業部長が営業部の一兵卒として配属されるようなものですからね。
当人は屈辱に思うでしょうし、部長もやりづらいでしょう。

おまけに新任の審判部長として、貴乃花一門を乗っ取った形で理事に就任した益荒雄の阿武松を大抜擢しているわけで、副部長として留任した武双山の藤島も面白くはないでしょうし、前部長は若嶋津の二所ノ関でしたから、療養のための退任といえどもその後任が二所ノ関一門を割って出た阿武松で、おまけに貴乃花も審判部ときては、審判部に配属されてる二所一門の親方衆の心中たるや穏やかではないでしょう。

この状況で審判部の空気を尋ねるのは愚問というものです。
勝負審判の他に取組編成も司る本場所の司令塔と言うべき審判部なのに、こんなんで大丈夫なのかね?というのが私の率直な感想です。

狙いは分からなくもないのです。
またもや「あーす」で瞬間勤務されては協会の沽券に係わりますから、勤務時間と職務が外目にもハッキリ分かる審判部に置いておけば安心です。
また、契約解除だけは勘弁してやってくれと嘆願書を出した貴乃花一門の阿武松の管理下に置くことも、貴乃花の孤立解消を手助けするでしょう。

ただ、ここ半年の間における彼の行動と、それによって被った相撲界全体の不利益を考えると、このような温情的な人事は疑問に思います。
八角理事長のお人好し加減に、親方衆が呆れてなければよいのですが。

とりあえず、貴乃花がこの温情を無駄にすることなく、10年後には親方衆の信頼を回復できているような働きをしてくれることを願っております。


散文になってしまいましたが、以上、貴乃花騒動に対する私の見解でした。




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Comments (4)

  1. shin2

    >>稀勢の里、貴ノ岩ら12人が春巡業を初日から休場 [2018年3月31日9時9分 ]
    >>https://www.nikkansports.com/battle/sumo/news/201803310000241.html
    >>貴乃花部屋の関取衆は4人中3人が休場。春場所で、貴ノ岩は2場所連続全休からの復帰で検査等を控え、幕内貴景勝は負傷、十両貴公俊は付け人への暴力で夏場所まで出場停止。十両貴源治1人だけ同行する。
    もう「結果」は出ている。貴乃花親方はそれを受け入れたはずだが、貴ノ岩に関しては頑として受け入れようとない。

    >>相撲協会が貴乃花親方の春巡業同行急きょ取りやめ [2018年3月31日18時27分]
    >>https://www.nikkansports.com/battle/sumo/news/201803310001207.html
    >>協会広報部は1場所出場停止処分を受けた貴公俊関や、元横綱日馬富士関による傷害事件の被害者十両貴ノ岩関らが巡業を休場することを踏まえ「部屋で弟子の指導や管理をしっかりしてもらった方がいい」と変更の理由を説明した。
    なんのために貴乃花親方を審判部に配属したのか。巡業に同行しても厄介になるだけ、という判断だろうが、処分が出たあとでも貴乃花親方の「ワガママ」を認めている。

    >>ここ半年の間における彼の行動と、それによって被った相撲界全体の不利益を考えると、このような温情的な人事は疑問に思います。
    同感です。「甘やかしている」とすら感じます。これでは日馬富士がババ掴まされただけではないか。

    Reply
  2. 甚之介 (Post author)

    うーん。
    温情をかけたことが裏目に出そうな気配が早くも濃厚ですね。
     
    部屋付き親方がおらず、女将さんも部屋に同居せず、しかしながら弟子達が多種多様な問題を抱えてるから親方は巡業に帯同できないという判断をするくらいなら、木瀬部屋のときみたいに部屋を一旦閉鎖させて、一門内の他の部屋預かりにしてしまえば良かったのに。
     
    あ、木瀬部屋を預かった北の湖のようなビッグブラザーは貴乃花の周囲にいませんね。じゃー仕方ないのかな。
     
    その巡業のうちに、暴力問題再発防止検討委員会が行っているヒアリング(全部屋全協会員対象)を自ら進んで受けるくらいのことしてくれないと、信頼回復の端緒も得られませんよね。

    Reply
  3. 東播磨ゴードン

    たいへん冷静で緻密な記事、色々と頷きながら拝見させていただきました。
    加藤の乱、アラフォーですが分かりますよ! 谷垣さんの言葉なんかよく覚えてます。

    >貴乃花には盟友もいなければ信頼に足る腹心もおりません。
    本当にこれが辛いです。貴ノ浪さえ生きていてくれれば、貴ノ岩の体や立場を犠牲にすることもなく、その後のあれやこれやもなかっただろうにと思います。

    >ビジネスライクな変革も、スポーツライクな変革も、その必要性はある程度認めるのですが、
    >土俵から遠い人ほど大相撲そのものを台無しにしてしまいかねない方策を平気な顔で言葉にするのですよ。
    とてもよく分かります。当方も日常生活で痛感しています。同じストレスを抱えていらっしゃること、お察し致します。

    Reply
    1. 甚之介 (Post author)

      コメントありがとうございます。_(._.)_
       
      たしかに、貴ノ浪の音羽山が存命であれば、と思ってしまいますね。

      Reply

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