大相撲春場所総括

場外の喧騒が耳障りな春場所ではありましたが、土俵の上では連日熱戦が繰り広げられました。
場外の論争に参戦する気持ちが起きぬまま観戦に集中できる相撲を取り続けてくれた力士の皆様に感謝しております。

あ、場外の喧騒については別記事を立てます。場所中は抑えていた分、たっぷりとね。


さて、今場所を総括するにあたっては、やはり鶴竜から述べねばなりません。

場所前に足首遊離軟骨を除去するための内視鏡手術を受け、その予後観察中に先場所痛めた右手の指を脱臼してしまうなど、後になって漏れ伝わる話は休場を選択して当然の内容でした。

8勝できれば…と言っていたのは謙遜ではなく正直な気持ちで、優勝インタビューにもありましたが、休場する辛さをまた味わうくらいなら茨の道は承知の上で出場しようという悲壮な決意で今場所に臨んだことが伺えます。

それでいながら、13勝2敗の金星配給なしで優勝という立派な成績を挙げた鶴竜。
「さすが横綱」という言葉が陳腐に思えるほどに価値ある優勝でした。

そんな状況でしたから、相撲内容的には先場所の序盤中盤ほどの充実度は望めるべくもなく、引きや叩きが目立ちましたが、それでも立合に外連味を醸すことなく愚直に合気の立合で15番を通したことは高く評価せねばなりません。

この点、両大関は大反省せねば。
高安は千代大龍戦で、豪栄道は栃ノ心戦で、それぞれ立合に策を弄してまで白星を得ながら横綱と並走することさえ得られなかったのは、立合の不安定さが大きな要因の1つでしょう。

鶴竜の立合は常に合気で踏み込み低く頭で当たるもので、そこに張り差しや前褌取り等のオプションが付くものの、ベースは判で押したように安定した形の立合。それがあるから引きも有効に働いたのでしょう。

鶴竜が示した外連味の無い立合を、他の力士が範とすることを望みます。


贔屓の高安は2場所連続の準優勝。
こんなところは兄弟子横綱をマネせんでもいいのに…。orz

千秋楽に露呈しましたけど、右大腿部の故障が癒えてませんでしたね。
初日と二日目の連敗も力の入る腰位置と角度を探しつつの相撲ゆえと考えれば、勝った取組も含めての腰が立ち気味の相撲にも合点のいくところです。

それでいながら12勝で優勝した鶴竜と1差にまとめたのですから、地力はもはや揺るぎないものがあるというのは衆目一致するところでしょう。

稽古が足りない…とは千秋楽の取組後の大関のコメントですが、正しくは稽古を積むためのフィジカルコンディションが得られないということ。

まさか、高安や稀勢の里にとって大師匠にあたる若乃花1の二子山による「ケガは土俵で治す」という呪縛に囚われている…なんてことはないと思うのですが、稀勢の里ともども、フィジカルトレーナーと綿密な計画を立てた上での復調を目指して頂きたいものです。

あれ?部屋としての契約か横綱大関個人の契約かジム通いかは問わないけど、フィジカルトレーナー付いてるよね? ね?


では、番付順で豪栄道について。

相撲の取口が嵌れば強いけど、それを外されると脆いという、従前の傾向がこれほど強く現れた場所は珍しいですね。

身体の動き自体は悪くなく、反応も良いのに、その良い反応で選択する取口の誤りによって相撲が瓦解するという今場所の豪栄道でした。

なにか1つ軸があれば、違った展開になったのではないかと。
立合もバラバラ、取口も左差し両差しハズ押し突き押しと日替わり、白鵬レベルの相撲センスがあればそれも可ですが、豪栄道にそれは望めず、この取口の迷走はなにゆえのことなのか、理解に苦しむところです。

ご当地力士として活躍が望まれた今場所でしたので、原因の見えない低調が実に悔やまれます。


三賞力士は敢闘賞の魁聖から述べます。

右四つで力が出る魁聖ですが、右でも左でもマワシを引いて前に出るという相撲の今場所であり、そのシンプルな相撲で白星を積み上げる姿が先場所の栃ノ心や逸ノ城と重なりました。

故障していたヒザが機能するなら幕内下位は家賃安。

惜しむらくは賜杯争いが鶴竜の独走、1差が魁聖のみという展開となり、横綱の関脇戦を屠っての割崩しという審判部の”英断”により、13日目にして横綱との直接対決が組まれてしまったこと。

高安が並走してくれていたなら展開も異なり、ひょっとしたら大きなボタ餅が落ちてきたかもしれず、その点では不運だったとさえ言えるかもしれませんね。

来場所は役力士総当たりの番付になるのでしょうが、より一層のヒザのコンディション向上を経て今場所の相撲内容を役力士相手でも発揮できるようにと期待してます。

200kg超級の寄り身はどの力士にも脅威だもんね。


殊勲賞の栃ノ心。

内股を気にしていたのは気付いていましたが、筋断裂していたとは驚きました。
筋断裂を抱えていながら横綱から殊勲の星を得ての10勝はスゴイ。

千秋楽に逸ノ城を下しての10勝目は大きかった。
関脇で10勝を挙げたことで先場所の14勝とつながり、夏場所に大関取りが懸ることになるでしょう。

ただ、今場所の苦しさは、栃ノ心自身の故障も一因ではありますが、やはり他の力士も攻略法を研究して栃ノ心戦に臨んでますよね。
休場していた横綱も戻り、フルマークされた東の関脇が順調に星を積めるか否か、注目しましょう。


遠藤の技能賞には納得しているのですが、従前の課題でもある前に出る圧力が今場所も終盤戦で萎えた感が強く、とくに千秋楽の松鳳山戦は相撲にさえならず、まだ完全復調ではないのかなぁと感じました。

三賞インタビューでの塩対応も、技能賞受賞と新三役確定の喜びはありながらも、それに応えられる自信がまだ無いゆえのことかなぁとも思いました。

しかしながら、対戦相手との間合や圧力、俵との距離といったものを正確に把握して対処するセンスは抜群のものがあり、その万能性が役力士には脅威。新三役に期待してます。


んー、逸ノ城を先に述べておきますか。

先場所の相撲を観て、この相撲を15日間取り切ったら優勝もあるぞ!と思ったものですが、終盤に入って失速してしまいました。

両拳を先に置いての立合は同じなのですが、魁聖との200kg超級対決を制した翌日から圧力が無くなりました。
改善された筈の右差しも元の棒差し、腰も立ってしまっては200kg超の重量も活かすことはできません。

腰痛でも再発したのかと心配しましたが、千秋楽の栃ノ心戦で吊りを見せたあたり故障の懸念は薄いですね。
スタミナ切れの類であれば稽古次第ですが、さて。

ともあれ、小結で勝ち越して西の関脇となる夏場所は、逸ノ城の今後を考える上での分水嶺となるでしょうから、今場所の失速原因を潰した上で臨んでほしいと願ってます。


今場所の松鳳山は、楽日勝ち越しが意外に思えるほど強い印象が残っており、勝っても負けても気合の入った相撲を15日間取り切りました。

ほぼ全て右張りの立合で対戦する力士も辟易していたことでしょうが、やはりその気迫は病床の師匠=若嶋津の二所ノ関に向けてのものでしょう。
師匠不在の間は部屋頭の俺が支える!という自負がヒシヒシと感じられました。

突き押す、差す、投げる、寄る、一切の迷いの無い相撲は気持ちが良い。
今場所の豪栄道に欠けていたものですね。

ところで千秋楽で遠藤を押し出した後の松鳳山による指差しですが、シュートサインに見えてしまったのは私だけでしょうか? A^^;


御嶽海は負け越してしまいましたけれども、取口には成長が見られました。
逸ノ城戦で見せた頭を付けてのハズ押し、豪栄道戦や高安戦で見せた取口展開のスピードなど、目を見張るものがあります。

故障を抱えて星を積み増すことは出来ませんでしたが、それでも7勝8敗にまとめて小結に留まれます。
苦しかった今場所で得たものは大きく、後の財産となるでしょう。来場所は期待してます。


とても残念だったのは蒼国来の大けが。
土俵から落ちた際に右足の甲を3ヶ所も骨折して全治2カ月とのこと。

鶴竜は「試練は乗り越えられる人にしか与えられない」と言ったけれども、蒼国来には試練を与え過ぎですよ相撲の神様。聞こえてます?

今場所は5勝止まりで夏場所は十両上位。
これを全休して名古屋で十両末席付近からの復帰になるのかな?
復活を信じて待ちたいと思ってます。


あ、琴奨菊のことを述べておかねば。

琴奨菊は6番しか勝てなかったのだけど、そのほとんどが実に琴奨菊らしい怒涛の寄り身の相撲でとても見応えありました。

実は初日に立合変化して負けた相撲がありまして、

と苦言を呈すようなツイートをしてしまったのですが、それが聞こえたかのようにそれ以降は相撲っぷりが格段に良くなって、

というように手のひら返しをさせられたのでした。

で、その琴奨菊は14日目に阿炎に注文相撲をまんまと食らって激オコだったわけですが、自身の立合変化を忘れて激怒するあたりも琴奨菊らしいなぁと苦笑したのでありました。A^^;


最後に正代。

この人の両差し相撲はホント面白いなぁと再認識させられた今場所でしたが、先場所に引き続き楽日負け越しとなりました。うーん。

タイプは異なるけれども同じ両差し相撲の栃煌山と同じく、相手の攻撃を胸でまともに受けてしまい抗しきれずに決壊するという負け方が目立ちます。

ただ、正代の場合は上半身の柔軟性で相手の突き押しや差し手争いを吸収しての両差しというところに面白味があるので、その特性をもっともっと磨くことで欠点の長所化に成功したら、化けるんじゃないかなぁと思うのです。

いつか突然に変身するんじゃないか?と大穴馬券的に期待してます。


今場所は中日が主管する剣道大会と重なっていたため、最初から幕内上位戦に限定しての観戦でしたので下位はよく分からないのですが、休場者が多数出たことを感じさせないほどの熱戦が繰り広げられました。

相撲内容的には優勝した横綱や両大関を筆頭に不足を感じておりますが、それを差し引いても面白き場所でした。

来場所も大いに楽しみにしております。
長い駄文にお付き合いを頂き、ありがとうございました。


Comments (2)

  1. shin2

    正代って立合いアゴ上げて両差し狙いに行くのが、ずっと得心がいかないのだけど、結構毎場所上位で星を残す。
    高見盛とか英乃海とか、学生相撲出身者に多いのだが、指導者に矯正されないのか、不思議だ。

    阿炎が10勝は驚いた。これで十両から4場所連続2桁だ。大先輩の琴奨菊相手に立合い変化に行くのは「度胸がある」と言っていいものか。さすがに琴奨菊にキレられてたが。

    十三日目、割崩しして組んだ鶴竜vs魁聖戦は魁聖ガチガチで自滅、鶴竜戦がなくなった御嶽海がラスト3日間、勝ち負け関係なしにいい相撲だった。「こんなことなら」と言っても遅いか。

    高安は横綱が見えてきた。もう「稀勢の里の弟分」みたいな立ち位置からは卒業するべきだ。場所前恒例の三番稽古で稀勢の里を圧倒するぐらいにならないといけない。

    Reply
    1. 甚之介 (Post author)

      正代については解説陣も評価の分かれるところみたいでして、評価する側に立つ親方に言わせると、上体が反っても腰が立たないところが良いらしいのです。これを昨年の中頃に聞いてから私もその視点で観ているのですが、取口に進化の兆しが見えてきて面白いです。
       
      阿炎の勝ち越してからの立合変化2番は、ちょっと私は受け入れられないですね。
      現役時代に変化などしなかった師匠の錣山と豊真将の立田川があの2番をどう受け取ったのか、知りたいところです。
       
      魁聖は、じつに魁聖でしたねw(伝わります? A^^;)
       
      shin2さんの高安に対する高評価は嬉しいのですが、や、まーだ横綱は見えてないと思ってます。
      もっと弾く立合を極めなければいけませんし、本文にも書きましたが、コンディションの維持管理が課題です。あ、これは兄弟子横綱も同じですが。

      Reply

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