九州場所終盤を占う
大相撲九州場所も十日目を終え、本日より終盤戦に突入します。
その軸が鶴竜になること、衆目一致するところでしょう。
まずは中盤戦の振り返りましょうか。(長いぞw)
序盤評で大絶賛をした蒼国来が大きく星を崩したことは痛恨時でした。
五日目からになりますが、上手を取りにいく立合が目立つのですね。
日馬富士や石浦のようなスピードと当たりのある上手取りではなく(十日目の取組で石浦にそれをやられたのは皮肉なことでした)、相手の肩に覆いかぶさるように取りにいく上手取りは変化に類するものであり、これを連日使うのには感心できないのですが、もしかしたらそうせざる得ない事情があるのかもしれません。
いずれにせよ序盤とは別人になってしまった蒼国来を残念に思います。
小兵の新入幕力士、石浦が中盤で勝ち越しを得たのには驚きました。
里山と並んで関取最軽量の115kg、身長では里山より小さい173cmの小兵であり、十両では勝ち越しても8-7か9-6を繰り返しての入幕でしたから、もっと苦労すると思ってました。
左下手ベースの取口で、解説席に座る舞の海秀平の現役時代と比較されますが、立合が合気で当たりの鋭いところが大きな相違点です。「きれいな舞の海」と言ってしまっては秀平に気の毒でしょうか?
これからが楽しみな力士です。
逸ノ城の相撲が良くなってきました。
とはいえ、差し手は相変わらずの棒差しで返すことを知らず、技術的な向上は見受けられないのですが、足回りが格段に軽いです。その軽さゆえに簡単に土俵外へ運ばれる相撲も目立ちますけど、減量したとはいえまだ180kg以上あるのですから、足腰を鍛えてもっと腰が座るようになれば重さも出てくるでしょう。
それを来場所に期待するためにもしっかり勝ち越してほしいものです。
荒鷲が星を伸ばして十日目にして勝ち越し。しかし、立合の策に頼るところがあってか星数の割に印象が残ってません。その意味では千代翔馬も同じ。両名、このままだとアンチリスト入りかな。
遠藤が六日目に白鵬に土を着けた際には快哉を叫んでしまいましたが、あの一戦をよくよく冷静に振り返るならば、あれは白鵬の平幕用省力相撲が裏目に出ての失策です。
どーせ差してくるんでしょ遠藤くん…と思ってたら突いてきたので面食らって押し出された三日目の稀勢の里と同様、遠藤は見くびられていたのです。まぁ見くびられても仕方のない先場所までの遠藤でした。
その遠藤、役力士が油断できないところまでは復調したものの、今場所あまり調子の良くない宝富士相手に星を落とすあたり、本人も言うように完全復調にはまだ至ってないのでしょう。
でも星は積んでいるので、10番勝っての三賞と三役を狙いたい。
宝富士の名前が上がったので述べてみますが、宝富士の代名詞である左四つの生命線=左のヒジのサポーターの厚みが不調を物語ってます。ただ、それでも6勝4敗と白星を先行させ、前述したように殊勲の星を挙げた遠藤を下すあたりが相撲の型を持つ力士の強さなのでしょう。
幸いにして役力士との対戦の少ない前頭5枚目ですから、着実に星を積んで横綱大関陣と当たる位置まで番付を戻してほしいものです。
玉鷲の勢いが中盤戦も衰えません。
本人のコメントによれば立合の形を変えたとのことですが、どのへんが変わったのかは今ひとつ分からず、本人も「ナイショです」と煙に巻いてます。
股関節の硬さが目立ち、突き押しを外された際に泳ぐことが常であったものが今場所は腰が割れて泳ぐことがなくなり、立合もアタマ半分低くなって威力を増したことは分かるのですが、それがどのような取り組みによるものなのかは藪の中。こういうところを相撲記者諸氏には取材してほしいものです。
まだ照ノ富士との対戦を残しておりますが、このまま下位力士への取りこぼしが無ければ勝ち越しはもちろんのこと、二桁勝っての新関脇が確実視されますから、終盤戦も大奮闘が期待されます。
高安については増量した割にバランスが良いと序盤評で述べましたが、どうも前への圧力の点で増量の効果がないように思えた中盤戦でした。出っ腹になった分だけ前傾姿勢が緩んでいるのかもしれません。ともかく筋力に対して適正な体重ではないのでしょう。
体重に見合った足腰を作って出直すためにも東関脇の地位はキープしたいものです。
さてここからは大関評。
照ノ富士の相撲が丁寧になりました。
下から下からと攻めており、肩越しに上手を取るような相撲は戒めている様子。それが功を奏して格下相手に星を落とすことを防いでます。
ただ、その相撲が役力士に通用するかといえば難しいところで、十日目の鶴竜戦では奮闘も空しく横綱の手の内で転がされました。カド番脱出は出来るでしょうけど厳しい土俵が続くと思います。
琴奨菊の相撲がやぶれかぶれに見えるのは私だけでしょうか?
右をガラ空きにして抱える点はいつものことですが、左を差す意思がなんか薄いのですね。で、組手もへったくれもなく、腰の低さだけを頼りに寄りまくるだけの単純な相撲になっているので相手力士も難なく対応できてしまう。負け越し寸前崖っぷちの星数よりも心配すべきは、大関の格ではない相撲に陥っていることです。
よぎる引退の二文字を吹き飛ばすような終盤戦であってほしい。
稀勢の里の中盤戦は、やはり九日目の豪栄道戦と十日目の白鵬戦を挙げることになります。
ケンカ四つとなる両力士との取組はどちらも立合で勝った相撲ではなく、豪栄道には右差しを許して土俵際まで寄られながらも廻り込んで突き落とし、白鵬には左から張られて右を差されるところ左おっつけで流してからの突き押しで五分に渡り合うことを得ました。いずれも相撲の流れに対応して白星を呼び込んだものであり、春場所・夏場所の序盤中盤で見せた無双ぶりとはまた別種の強さを発揮した点で高く評価できます。
ただし、七日目の正代戦で左差しにこだわりすぎて墓穴を掘ったのもやはり同一人物たる稀勢の里であり、この対応力がホンモノであるのか否かを終盤戦(とくに鶴竜戦と日馬富士戦)では見極める必要があるかと。
豪栄道、稀勢の里はともかく隠岐の海に不覚を喫して3敗となり、綱取りは遠のいてしまいましたけれども、先場所と何が違うのかといえば何も変わっておらず、好調か不調かと問われるなら自信を持って好調と言うことができます。
では、なにゆえの3敗なのかと問われる時、豪栄道に綱取りを意識しての固さがあるという声をよく聞きますが、それは違うと思うのです。
豪栄道は特段変わりはないのですが、相手の豪栄道への意識が変わってます。先場所負け越して角番の大関を相手する時と、先場所に15戦全勝で優勝した大関を相手する時では、その覚悟は雲泥の差があるでしょう。そのマークをかいくぐって連勝を重ねるというのはなかなか難しいのではないでしょうか。やはり先場所の15戦全勝はダークホースであったことを割り引いて評価すべきでした。
繰り返しますが、豪栄道は先場所同様に好調だと診ております。これから三横綱と対戦する中で、おとなしく星を献上するわけがなく、優勝戦線をひっかきまわして頂きたいと願ってます。
さて、横綱評。
白鵬ですが、七日目から左ヒジにもサポーターを付けての土俵になってます。休場明けでどこまで復調したかを問われてますが、やはり満身創痍である様子です。
序盤評でも述べたように思えますが、やはり中盤戦に入っても立合の策が外連味たっぷりで、とくに七日目の嘉風戦では嘉風の不調も相まって相撲にならず、館内のブーイングを誘う結果には寂しささえ感じました。
かと思えば九日目の琴奨菊戦、そしてこれまで立合を全く合わそうとしなかった稀勢の里戦を綺麗に立ち、横綱-大関戦に相応しい相撲内容を示したことには驚きました。このような良い方への裏切りは大歓迎。ただ、しかし、満身創痍の状態を考えた時、はたして白鵬が勝敗とは別次元の価値を土俵に求めるのは遅きに失したように思え、その心変わりとも思える白鵬の変貌が吉と出るか凶と出るのか、それとも勝ちに拘る白鵬に戻るのか、予断を許さない終盤戦になります。
今場所の鶴竜はパーフェクト。これ以上の鶴竜はありません。
唯一崩されそうになったのは八日目の玉鷲戦くらいなものですが、あれとて終始鶴竜の手の内でした。
本日の稀勢の里戦で稀勢の里のパワーに飲まれなければ、このまま千秋楽まで突っ走るのではないかと思ってます。
とくに述べることがないくらい、技も体もキレキレで手のつけようがないです。
序盤四日目の碧山戦で右足首に不安を抱えた日馬富士ですが、中盤戦の平幕相手には早い相撲に徹する姿勢を貫きましたね。喉輪押し一気に押す相撲は久し振りに見るキラー日馬富士でした。
終盤戦で役力士との対戦を迎えるにあたって右足首の状況が気になるところですが、十日目の高安戦で外掛けが出たあたり、そう心配するレベルではないのかなぁとも思います。
終盤戦は立合の鋭さを活かして先手を取ることに意識を集中して望むのでしょうが、その印象が強い今場所、どこかで左上手を取る立合を見せると思うので、稀勢の里あたりは要注意ですね。
今場所は序盤・中盤とても相撲内容が充実してます。凹みは七日目くらいかと。
ぜひこのままの盛り上がりで千秋楽を迎えてほしいと願います。
散文かつ長文、失礼いたしました。