相撲協会の失態と女人禁制議論
大相撲春巡業の舞鶴場所にて起きた事故からの考察その3として、相撲協会の失態と女人禁制議論について述べてみます。
相撲協会の失態と女人禁制議論については個別に述べるつもりだったのですが、相撲協会の失態が深まってしまったことにより、並列に述べざる得なくなってしまいました。
さて、まずは女人禁制についてですが、大相撲の土俵に限らず、男子禁制および女人禁制の対象は多々ございます。
例として挙げるには公衆トイレが分かりやすいかと思います。
(一応、断っておきますけど、土俵をトイレに例えるつもりはないですよ。)
原則として男子トイレは女人禁制、女子トイレは男子禁制であることに異を唱える方はごく稀でありましょう。
しかしながら、例えば、
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男子トイレに女性の掃除担当者が入ること。
女子トイレに母親が未就学男児を連れ込んで用を足させること。
高速道路SA等の女子トイレに長蛇の列が生じているときに、男子トイレの個室を女性が使うこと。
といったものは例外として禁制破りが黙認されてます。
その一方で、上記の真逆の行為である、
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女子トイレに男性の掃除担当者が入ること。
男子トイレに父親が未就学女児を連れ込んで用を足させること。
高速道路SA等の男子トイレが清掃中で使えないときに、女子トイレを男性が使うこと。
といったものは咎められますよね。
このように、男子禁制や女人禁制を杓子定規に適用することなく柔軟に対応しつつも、ある一定のラインは超えないというバランス感覚は、世間一般に普通に存在するものです。
後で述べますけれども、大相撲、ことに花相撲である地方巡業における女人禁制も、同様だったのですけどね。
今回、女人禁制の土俵上で倒れた舞鶴市長を女性が救急措置を施す中で「女性は土俵を降りてください」とアナウンスしたというのは、女子トイレで女性が倒れたとの報を聞いて駆けつけて救急措置を施している男性に対し「男性は女子トイレから出てください」と言い放つのとまったく同じことであり、不適切の誹りを免れません。
実際のケースでは、AEDを使用する際に電極パッドを胸部に貼ることと金属類を外すことが必要であるため、患者の上半身を露わにしなければならないのですが、患者が女性である場合、外野から「女性に替われ!」との声を浴びせられることもある旨を、救急法の講習を受講した際に聞きました。
しかしながら、突然人が倒れるという事故に遭遇したことによってパニック状態に陥ることが、誰の身にも起き得ます。
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「女性は土俵を降りてください」
「男性は女子トイレから出てください」
「女性に替われ!」
いずれも「人の命が助かるか否かの瀬戸際にナニ言ってんだ!」と批判されて然るべき失言ですが、パニック状態に陥り判断力が鈍ると、自分の判断に自信が持てないので通常ルールに頼ってしまうという傾向は、その強弱はあれ、誰もが持っているものです。
あとで落ち着いてから考えてみれば失言だったと自らが認めるでしょう。
当然、失礼な言葉を浴びせてしまった人や関係各位に謝罪することになり、謝罪される側もそれを受け入れるくらいの度量はありますから、通常はそれで一件落着となります。
不適切アナウンスに関しても、報道により話が増幅し過ぎて難しい話になりましたが、やはり基本的には丁重に謝罪することで一件落着となることですので、日本相撲協会の八角理事長による声明および謝罪は適切かつ十分であったと私は評価しております。
さて、舞鶴場所の後の宝塚場所に際して宝塚市長(女性)が先鞭を付けた大相撲の土俵における女人禁制議論に対する見解に移りたいと思います。
宝塚市長の件に限るならば、笑止千万な政治利用でしかありません。
件の宝塚市長は昨年の春巡業宝塚場所でも挨拶に立っておりますが、昨年は土俵に上がれないことを全く問題にしていないのですね。
え?舞鶴場所の件で男性市長が土俵上で挨拶しているのを見て初めて知った?
そんなわけないでしょ。仮にそれがホントだったとしても、そこから数日のニワカ知識で伝統とされているものを変革せよとは、随分と乱暴な話ですよね。
舞鶴場所での不適切発言により土俵の女人禁制が問われる中で、宝塚市の女性市長がどのような言行をするのか注目されていたが為に、それをせざる得ない政治的立ち位置にあったことが宝塚市長の不幸だったと同情する部分もあるのですが、政治家としては、小池都知事の「土俵に上がって、賞をお渡しすることにチャレンジするためのエネルギーをそそぐつもりは、あまりございません」や元大阪府知事の太田氏のコメントがベター。
マスコミは宝塚市長と同様のコメントを期待して取材したのでしょうが、出てきたのは鎮火方向のコメント。ガッカリしたことでしょう。
お2人とも、私はあまり好きではない政治家ではあるけれど、やはり都知事や府知事を務めるレベルの政治家は宝塚市長のような悪手は打ちませんね。
これで終わっていれば良かったのに、巡業における「ちびっこ相撲」からの女児排除という話がクローズアップされてしまいました。
これは、序盤で挙げた公衆トイレの例で言いますと、こんな感じですよ。
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高速道路SAの女子トイレで女性が倒れた。
男子トイレから出てきたばかりの男性医療関係者が騒ぎを聞きつけて、女子トイレに駆け込んで救護活動をした。
「男性は女子トイレから出てください」との不適切な批判を浴びつつも無事救急隊に引き渡すを得て倒れた女性は一命を取り留めた。
しかし「男性は女子トイレから出てください」だけがクローズアップされてしまった結果、女子トイレは緊急時以外男子禁制との声明をSA側が出さざる得なくなった。
その結果、今まで女子トイレに母親が未就学男児を連れ込んで用を足させることが黙認されていたのに、それもダメだと言わざる得なくなった。
てことです。
「ちびっこ相撲」に女児が参加していたことも、とくに問われることもなく黙認してきたことなのですよ。でも、それを公にコメントを求められるならば、協会も勧進元もNGと言うほかありません。
ですから、日本相撲協会としては「これまで曖昧にしてきたけれども、今後は土俵における女人禁制という伝統を厳守することにしました。」で良かったのです。
それはそれで議論を呼んだでしょうが、多くの大相撲ファンの支持は得られたでしょう。
それを、昨年9~10月頃には決定していたことなどと、言外に当時巡業部長だった貴乃花の関与を仄めかすことを述べたり、女児に対するケガの心配などというツッコミ待ちのボケとしか思えないことを述べたりしては、大相撲ファンの支持が離れるのも仕方ありません。
この点は明らかに相撲協会の失態であり、猛省した上で正して頂きたい。
私としては、女人禁制も守るべき伝統だと思いますけれども、その理が立たずして伝統を守ることなどできません。
相撲協会は「伝統だから」ではない女人禁制の理を立てるべきです。
そもそも相撲協会は、自らが纏う相撲文化についての理論武装が甘いのですよ。
女人禁制だって、その理を指導者である全親方が統一見解を元に教示できるなら揺るがないのに、テキトーに不勉強丸見えなコメントをする親方が少なくないのですから、こんなんで伝統を守り伝えていくことは出来るのかな?と不安に思ってます。
おっと。この言は、そのまんま私たち剣道指導者にも跳ね返りますね。
後進に対し、礼法や所作の意味するところを教示できているでしょうか?
剣道の理念は説明できますでしょうか?
相撲や剣道のみならず、日本文化の担い手を自負する者すべてが、敵対的勢力からも憧れをもって接する者たちからも問われてます。
心しなければなりません。
宝塚市長に関してはかっこ悪さだけが印象に残りました。その反動で太田さんや小池さんは非常にスマートで頭の良さを垣間見た気持ちです。宝塚市長も前年度は笑いを誘う素晴らしい挨拶をされていたようなので残念です。
今回の女人禁制問題が起きてから、ずっとモヤモヤしていた気持ちがこちらのブログを拝見してスッキリいたしました。
コメントありがとうございます。_(._.)_
私も含めてのことになりますが、女人禁制撤廃派も維持派も勉強不足ですよね。
そこを知的な方向にリードしてこそマスコミの価値なのに、ただ騒ぐだけなのは困ったものです。
朝日新聞が「女人禁制」をどう考えればいいのかについて、文化人類学者の鈴木正崇・慶応大名誉教授に訊いている。
>>「女人禁制」そもそもどうして生まれた?宗教的に考えた
>>https://www.asahi.com/articles/ASL4B72J3L4BUCVL024.html
鈴木教授の見解は、
>>「一般で広く行われる相撲には女性も参加し、女相撲は江戸時代には興行が盛んだった。一方で、近世の勧進相撲や近代の大相撲は土俵の聖域化を進めて権威を高め、禁忌を創出してきた。女人禁制もその一つだ」
>>「千秋楽には、神酒廻(まわ)しと手締めをして行司を胴上げする神送りの儀式があるが、表彰式はその前だ。まだ神がいる土俵に、首相だろうが力士以外の一般人が平気で上がっている。それなのに女性という理由で、排除されるのは違和感がある。神を送った後に表彰式を行い、女性を含めて一般人を上げれば筋が通る」
「神送りの儀式」の後、単なるステージと化した土俵で表彰式を行えば問題はない、とする見識だ。
ただ、今度はNHKという厄介(失礼)が出てくる。千秋楽の放送は6時までに終わらせたい。賜杯拝戴→優勝力士インタビュー→NHK金杯授与までは放送時間内に終わらせたいだろう。
そのあたりを上手く摺り合わせる必要があるが、日本相撲協会はこういう交渉事は苦手だと思われる。だから「裏金顧問」と呼ばれる怪しげな人物に食い物にされる。
「大相撲の伝統だから」というのは「無理ヘンに拳骨」と変わらない。おそらく相撲協会がこれほど世間の悪意と対峙するのは、八百長メール事件以来ではないのか。このときは放駒理事長(魁傑)が素早く対応(やや拙速か、とも思われたが)している。
鎖国状態だった相撲協会に黒船船団が押し寄せてきた。なかなか帰ってくれそうにもない。
コメントありがとうございます。_(._.)_
>おそらく相撲協会がこれほど世間の悪意と対峙するのは、八百長メール事件以来ではないのか。
それは私も感じるところですが、今回は相撲クラスタの離反は少なく、相撲と縁遠い人によるバッシングばかりが目立つと言う点がまだ救いかなぁと。