二律背反する白鵬への戸惑い

前回に引き続き九州場所の話ですが、総括前にもう1話。
胸を震わせた白鵬の優勝インタビューから考えさせられたこと。

千秋楽の当日、私は剣道の稽古があって、生中継は観ておりませんでした。
17時前に稽古会場を後にして、車中のラジオで相撲中継を聴きながらの帰り道。逸ノ城vs照ノ富士の熱戦には思わずハンドルを握る手に汗をかきましたが、以降の相撲はまぁ想定内中の想定内でして、丁度自宅に着いて車庫入れしながら鶴竜が為す術なく白鵬に敗れる相撲を聴き、あーあ、つまらんなぁと思ったものです。

と、言いますのも、やはりこの九州場所での白鵬の土俵態度は目に余るものがありましたし、相撲内容とて立合から何から何まで強さよりも策略じみた色の強いもので、さすが白鵬、と思うよりはチッと舌打ちしてしまう十五日間だったものですからね。

弟弟子の援護射撃を活かせなかった稀勢の里、またも注文相撲から自らの相撲を崩した鶴竜、他、連勝記録更新中の白鵬ならいざ知らず、斜陽感たっぷりな今の白鵬に土を付けられずにいる各力士にこそ腹を立てるべきなのでしょうが、終わってみればまた白鵬の優勝という千秋楽。面白かろうわけがないのですよ。

が、そこはテレビ桟敷住人の哀しい性で、自宅に入ればテレビを付けて千秋楽の残り香を嗅ぎにきてしまう。で、件の白鵬のインタビューですよ。

聞いてない人はYouTubeに載ってるでしょうから聞いて頂きたいですし、内容を知りたい方はググれば一問一答形式で載せている記事を拾えるでしょうから読んで頂きたいのですが、ライブ中継で観たときの感動は得られなかったのでリンクは貼りません。大事なのはそこではありませんから。

ハッキリ言ってアンチ白鵬な私ですが……感動させられました。参った。白旗。降参。

ついこの前の記事で元首天皇論を書いた手前、ウルトラライトの人じゃないかと警戒されるのも困るので躊躇してしまいますが(経済政策的には左寄りを自覚してるんだけどなぁ私…)、まさか明治天皇に話が及ぶとは…。

インタビューの流れから、大鵬さんから聞いた話なのかな?

大久保利通の話は不勉強にも初耳。まー、たしかにお抱え力士の多かった薩摩藩の巨頭ですから不思議はありませんけど、大相撲存亡の危機を救った明治の元勲といえば伊藤博文と板垣退助くらいしか知りませんで、勉強せねばなりません。

で、明治天皇ですが、これはホント白鵬の言うとおり。白鵬がインタビューに含めた明治天皇、そして昭和天皇と今上陛下は大相撲にとって大恩人でありまして、大相撲に関わる全ての人間は、白鵬を見倣って天皇陛下への感謝を表すべきなのですよ。

明治天皇の天覧によって瀕死状態だった相撲興行が息を吹き返し、現在の大相撲があるのです。

昭和天皇の皇太子時代の下賜金によって摂政宮杯(現在の天皇賜杯)が作られたことがきっかけで大日本相撲協会=現在の日本相撲協会が発足し、現在の大相撲があるのです。

昭和天皇については、戦後は途絶えていた天覧相撲が昭和30年5月場所で復活し、以降はほぼ毎年のように天覧なされ、天覧再開に栃若時代が相乗して、現在の大相撲があるのです。

今上陛下におかれましても、相撲をこよなく愛された昭和天皇のご意志を継がれ、平成2年より毎年1回天覧なされております。しかし、不祥事多発により平成20年と21年は天覧が取りやめとなり、優勝した白鵬が天皇賜杯を抱けずに涙した件も記憶に新しいものがありますが、平成22年に天覧が再開されたことにより不祥事が赦免された形となって、現在の大相撲があるのです。

モンゴル出身の白鵬の口から明治天皇の話が出たとき、ああ、この横綱の相撲に対する理解は本物だ、外国出身ながらここまで理解が及んだのは大したものだ、なんて素晴らしいのだろう、と思ってしまいました。


「思ってしまいました」と言いますのは、インタビューで私を感動させた白鵬と、九州場所十五日間ずーっと私に舌打ちをさせ続けてきた白鵬の土俵態度が、まったく一致しないという大きな戸惑いがあるからなのですよ。

おそらく、稽古から帰宅するのがもう少し遅れ、テレビでインタビューを観ることなく、ラジオで声だけ聴くなり、新聞紙上で活字になったものを読んだりしていれば、「けっ、なに言ってやがる白々しい」「天皇陛下への感謝が本物であるならば、当然にして大相撲と神事の繋がりも理解して然るべきであり、なのにあの土俵態度はありえんだろうよ」と思ったことでしょう。

が、インタビューでのあの表情、言葉を選んで話そうとする態度、潤む眼差し、これらは演技ではできないと思わざるえませんでした。本音も本音、本気も本気で白鵬は語っているわけで、私は感動に胸を震わせつつも、なんとも言えない消化不良感に今も悩まされてます。

来年の初場所、大鵬超えを目指す白鵬をどのように観ればよいのでしょうか?


誠中外形
~うちに誠あれば、外にあらわる~

これは、地元地区の中学剣道で掲げられるスローガン的な言葉ですが、白鵬に望むところは正にこれです。

インタビューで語った”誠”が本物であるならば、形となって外に表れるはず。その外形から誠を感じられるのであれば、異形の所作も、一見傍若無人とも見まがう土俵態度も、すべて認める用意をして初場所の白鵬を観ようと思います。

ただ、やはり、今もってしても、九州場所で白鵬が示した外形から”誠”は感じられない。それが一度完全に見下してしまったがゆえの色眼鏡のせいなのか、それともやはり言行不一致のまがい物なのか、初場所ではしかと見届けます。




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Comments (5)

  1. あ@花

    甚兄さんこんにちは。
    今場所も大変お世話になりました。
    白鵬関への思い、かなり共感します。もともと形から入る方なので、後の先と言いながらこそくな立合いしたり、だめ押しや懸賞の取り方など諸々文句はありますが、表彰式で見せた涙も本物だと思います。
    ところで天皇陛下に感謝したい発言。どうもドルジ氏があれに反応しているようですね。日本語でもつぶやかれていましたし、モンゴルのお国の方との会話にも(読めませんが)白鵬関のことがたくさん出ているようです。
    白鵬関が表彰式でモンゴル語でされた挨拶、カンタンな訳しかなかったので実際のニュアンスはわかりませんが、モンゴルの方たちから大きな声が上がっていました。
    そこで思い出すのは、やはりモンゴル相撲の横綱だった父上のかつての発言。
    父上はモンゴル籍のまま、協会残留させるのが当然、という感じの発言をされていました。父上ご自身が国の英雄なのですから、帰化というのは難しいのかな、と思っていました。
    でもどうやら、白鵬関は帰化に向かって動き出すような気がします。朝青龍関は、それを感じ取って騒いでいたような気がします。
    つらい決断のはず。そこにいらだちがあったのかもしれないと思います。だからと言って土俵態度はいただけませんが、つらい状態であることは理解できます。
    そういうことを踏まえての「天皇陛下に感謝」なのかな、と思いました。
    我々日本人に生まれた日本人は、あまり天皇陛下への感謝を口に出すことは思いつきませんので。

    何はともあれ、今年のお相撲も終わりました。
    稀勢関にとっては試練の一年ですが、なんとか二桁で終わり、来年も(ぼたもち的に)東の正大関として初場所を迎えます。
    来年も稀勢の里クラスタ、励まし合っていきましょう。
    ありがとうございました。

    Reply
    1. 甚之介 (Post author)

      あ@花さん、おはようございます♪
      今場所は仕事が忙しかったわりにはよく観られまして、Twitterでのやり取りも楽しゅうございました。(^^)

      インタビュー冒頭のモンゴル語で語られた部分はとても気になってますが、まだ確認できておりませんでモヤモヤしております。
      あ@花さんが懸念されている点、忘れてました。そうか、帰化問題があったのでしたね。重い課題です。でも、そう言われてみれば、たしかに合点のいく話ですね。

      稀勢の里を応援する身としては、なんとか取っ掛かりを得た感のする今場所ではありました。まだまだ魁皇化するには早いと思っていた反面、それを心配させられたここ数場所でしたので。おかげさまで良い年越しになります。豪栄道ファンに同情しつつも。

      Reply
  2. Starship & Sun

    甚之介さん、こんにちは。ご無沙汰しております。
    僕も(悔しいけれど)感激させられた一人です。
    以前も書きましたが、僕は幕下時代からの白鵬ファンでしたが、
    土俵での振る舞いにファンを名乗らなくなっていました。
    しかし、今場所のインタビューではもらい泣きするほど感動し、
    なんでこんな博学で良い人があのような態度をとるのかと混乱しています。
    特に筋金入りの右寄り(亡き父が特攻隊の生き残り)教育を受けてきましたので
    あのコメントには感涙ものでした。
    全力士のお手本となる行動をとって欲しいものです。
    PS:蒼国来、まずは勝ち越しおめでとうです。
    先場所に比べ、押し相撲に一気に持っていかれなくなったのが勝因かなと思っています。
    来場所も頑張って欲しい!

    Reply
    1. 甚之介 (Post author)

      Starship & Sunさん、おはようございます♪

      ホント、白鵬のインタビューは感涙ものでした。それだけに…ですよね。
      来場所、いや、地方巡業よりそれを形で示して頂きたいものです。

      蒼国来はやはりまだ終盤に息が切れる感がまだあります。
      ただ、徐々に良化しており、来場所も期待できるのではないかと思っております。

      Reply
  3. Pingback: 外形は良いんだよなぁ | 甚之介の剣道雑記帳2

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