名古屋場所序盤振り返り

大相撲名古屋場所も五日目を終えました。
恒例ではありますが、序盤戦を振り返ってみたいと思います。

初見の方に向けて少し説明させて頂きますが、私は序盤・中盤・終盤と5日間づつに分けて大相撲を楽しんでおりまして、五日目終了後に序盤の振り返り、十日目終了後に賜杯の行方を占い、千秋楽終了後に場所全体の総括を書く予定でおります。

この後の記事にもお付き合いを頂けますなら幸いに思います。


まずは場所全体についてから書きますが、初日、二日目と「内容がないよー」と駄洒落を飛ばすしかない有様でした。(ダジャレンジャーとしてのセンス、ゼロですな A^^;)

とくに初日。
どの場所でも初日は日曜日で大入り満員となること必至、加えて、幕内前半戦では幕内下位力士がほぼ同じ枚数同士での取組、後半戦では役力士が番付順に幕内上位力士の挑戦を受ける取組が続くので、本来であれば盛り上がらないわけがないのですけど、なぜか盛り上がらない。

大型台風通過に伴う高湿度高気温の酷暑となって体調管理に差が出たのか、好調を思わせる力士と不調を匂わせる力士がモザイク状に散りばめられ、その結果なのか、瞬殺相撲とそれに起因する館内の溜息が多発しました。

さらに、結び前の一番での日馬富士によるヒジで小突くダメ押し、結びの一番での白鵬による立合の突っかけからヒジでの小突きと横綱らしからぬ不作法が続き、これを審判部が不問とするに至って、心ある観客の不興を買ってしまいました。

これで盛り上がれという方が無理というもので、日本相撲協会全体として反省すべき点の多い名古屋場所の滑り出しと言えます。

幸い、三日目から相撲内容が徐々にではありますが向上しつつあります。

Twitter相撲部の盛り上がりも増してきて、このまま中盤戦へと突入することを望んでいたところでしたが、五日目の結び前で鶴竜が大砂嵐に変化した上に金星配給、結びでは(日馬富士に非はないけど)豊真将が右ヒザに大ケガを負うという、暗雲立ち籠めるかのような最悪な序盤節目となり、中盤で良き場所に転じるようにと祈る思いでおります。


いつもは贔屓力士の話から入るところですが、今回は物議を醸している点から述べてみましょう。えーっと3点あります。

まず最初に、人気と番付の家賃高に苦しむ遠藤について。

遠藤が非凡であることは間違いなく、今後が楽しみな力士の一人であることには異論の挟みようもありませんが、懸賞が十数本も掛けられるほどの力士なのか?といえば疑問に思うのです。

引退した高見盛の例を挙げるまでもなく、常に懸賞が掛けられる遠藤本人よりも、普段は1本の懸賞さえ掛けられないことさえある対戦力士のモチベーションがグーンと上がってしまい、結果として遠藤を応援するゆえの懸賞が逆に遠藤を苦しめることになっているのは皮肉としか言いようがありません。

これを誘発しているのが、まだ髷も結えない状況から大関昇進への期待が述べられるなどの無責任な遠藤推し。

先々場所あたりまでは記録的な駆け足昇進からそれも許されたかもしれませんが、先場所は課題が露呈して「遠藤もそうは勝てないぞ」という雰囲気であったのに、それを言わずに遠藤推し実況と解説で遠藤人気を煽り続けたことが、家賃どおりに勝てなくなった遠藤に対する急増にわかファンの落胆を招き、場所の雰囲気を壊しかねない状況にさえなりかけてます。

力士単体の人気に頼るやり方は若貴時代で懲りていなければなりません。日本相撲協会には広報部を中心として”売り方”を再構築して頂きたいものです。

また、観る側もありのまま等身大の遠藤を観なければなりません。
遠藤は幕内上位で常勝を望めるような力は未だ無く、立合で当たり負けしがちになるという大きな課題を乗り越えようとしているところであり、その成長過程を楽しむ姿勢がよろしいかと思います。


続いて、理由もなくイラついているように思える白鵬について。

初日の不作法については先述したとおりですが、あれを初日にやるところがいつもの白鵬らしからぬところです。

”あれ”とは立合におけるあからさまな駆け引きのこと。

あれは終盤に入ってから、それも稀勢くらいにしかやらないのに、立合を警戒しなければならない安美錦相手とはいえ初日からブラックスワン化するとは思いませんで、驚きましたね。

近年、序盤のバタつきが目立つ白鵬ではありますが、右四つ十分に寄りながら勢に左上手を与えて逆襲を許した取組や、豊真将に上手を許してしまい、寄り切って後にダメを押した取組、さらには昨日五日目、突き押し乱戦を制した形となるも動きを捕らえきれなかった嘉風に対し、勝負がついた後に嘉風のアゴに手をかけ顔を上げさせるという傲慢な態度を示すなど、あー、思うようには相撲が取れていないんだろうなぁと感じます。

とは言いながらも、また中盤で相撲を立て直し、相撲内容はともかくとして星勘定では優勝戦線を引っ張るのが白鵬でありますので、中盤戦でブラックスワン化が収まることを期待することにします。


最後に、大砂嵐の右かち上げについて。

そもそも大相撲では、殴打によるKOは勝負を決する方法に含まれてないということを、大相撲を観る側は抑えておきたいものです。

たしかに、張り手やかち上げがアゴに入ってKO然となることはありますが、それは偶発的な事故による産物であって、張り手の主目的は攪乱、かち上げの主目的は相手力士の上体を起こすことなのですから、それら主目的から外れ、相手にダメージを与えることを主目的にした張り手やかち上げは許されるものではありません。

大砂嵐が立合で常用している右かち上げ、とくに先場所終盤からの『右足を引いた姿勢によって右腕の移動距離を稼ぐと同時に右ヒジが弧を描いて相手力士にめり込む形の右かち上げ』は加害目的100%であり、かち上げとさえ言えない形のものですから、批判されるのは当然と言えます。

さらに、五日目の鶴竜戦で横綱初挑戦にして金星を獲得した大砂嵐ではありますが、鶴竜の左変化に反応して右かち上げを止めることができたことで、あの右かち上げは立ってから故意に顔面を狙いにいくものなのでは?という疑惑が強まってます。

これを大本営発表たるNHK実況&解説が批判せずに認めてしまうのには、いかがなものかと疑問に思います。

とはいえ、競技規則として張り手やかち上げを禁じるわけにはいきませんし、故意か偶発かを見分ける術などありませんから、この不文律は上位の力士が土俵上かつ相撲の中で大砂嵐に叩き込むほか方法がありません。(その意味でも変化した鶴竜には落胆しました)

ベテランの豪風は、大砂嵐の右肩にアタマから当たると同時に左ハズ押しで宛がうことにより、かち上げを無効化してみせました。

大関の稀勢の里は、顔面でかち上げを受けながら動じることなく左を差して圧倒し、力の差を見せつけました。

その反省か、大砂嵐はヒジをより鋭角に叩き込むことによって、豪風と同じ対策で臨んだ千代鳳の左目に肘を入れてKO勝ち。うーん、付けるクスリが無いなぁというのが正直な気持ちです。なんとかしろよ大嶽親方。

こうなりますと、毒には毒をもって制す、つまりは制裁しか方法が無くなりつつあります。

制裁といえば、今件の比較対象にされがちな、板井のバンテージで固めた両掌による張り手(主に大乃国が攻撃対象でした)に対し、小錦が土俵中央でのワンツー張り手でKO制裁したのを思い出しました。

それと、元気な頃の魁皇が、盟友の千代大海に無礼な相撲を取った某力士に対し、制裁としか思えない突き押しで土俵下の砂かぶり席2列目まで吹っ飛ばしたのを思い出しましたが、白鵬がかち上げの右腕をとったりに極めるとか、日馬富士がより暴力的な張り手と喉輪押しで応戦するとか、そういうことが起きる前に、せめて立合姿勢を正対したものに戻してほしいと願ってます。

あ、先に言っておきますが、ダメ押しでは制裁にならんですよ。


うあ、長文癖が発症してしまった。
ここからやっと本題の贔屓力士についてですよ。付いてきてくれてますか? A^^;


まず稀勢の里。

初日と二日目の相撲は、ややもすると腰の角度が立ち気味かなぁとも思わないでもなかったのですが、四日目の勢に対する完勝が安心材料。先場所同様に好調をキープしていると診ております。

立合の形が先場所より背中が丸まっていて、先場所同様にお腹の下に手を着いてます。完成系に近いのではないでしょうか。

安美錦に不覚を取りましたが、あれは左を差せて安心してしまって安美錦の速い引きへの対応が遅れた、つまるところポカですね。

序盤のポカ負けは想定内なのでまったく動じませんが、このポカによる1敗が後々響いてしまって賜杯を逃してきたこれまでがあるので、また今場所も…という空気は否定できませんけれども、亀の歩みどころかカタツムリの歩みでじんわりと相撲内容を高め続けている稀勢なので、まー、過剰な期待もできないけれども簡単に落胆する必要もありません。(類い稀なる勢いで登りつめるという先代鳴戸の願いとは真逆ですけど A^^;)

贔屓にしている側としては、先頭から2差以内で終盤戦に突入してくれたならば、念願の賜杯を抱く稀勢の姿を願い続けられます。がんばれー。


高安が久々に絶好調でありますよ。

まー、負け越しが続いての家賃格安な番付でもありますし、典型的なツラ相撲なのでいつ連敗が始まっても驚くには値しないのですが、瞬時の反応や膂力での逆転ではなく、突き押しで流れを作ってから自分優位の組み手を取るという相撲の形による完勝の連続というのが、贔屓としてはとても嬉しい序盤戦であります。

あとは連敗癖とケガの再発(田子ノ浦勢は痛がらないし公表しないので勝手に疑っているだけですけれども、高安は腰か股関節を痛めてるとしか思えない先場所と先々場所でした)だけを気をつけてれたなら、久々の三賞獲得が見えてくるかなぁと期待しつつの中盤戦になります。


史上5番目の高齢で幕内再復帰した若の里ですが、やはり幕内となると厳しい戦いの連続ですね。

右から張って左差し狙いの立合も、相手が怖がらないのでなかなか左差しに成功しませんし、左を差してようやく五分といった相撲内容が続いてます。

それでも張り差しの立合を変えないのは、十五日間を見据えてのことでしょうね。
相撲の形自体は悪かろうはずがないのですから、自らそれを崩すことはせずにやるべきことを外見的には淡々と、内面は沸々と、日々幕内力士の務めを果たすのでしょう。

旭天鵬にも同じことが言えますけれど、番付では測れない到達点ですよね。年齢だけのレジェンドではないのだな。真摯な土俵姿勢が実に尊いです。


四日目の豊響には驚きました。
左の突き手一発で腰の重い照ノ富士をひっくり返してしまいましたからね。

豊響の突き手が照ノ富士のアゴに入り、照ノ富士が脳震盪を起こしたゆえの派手な突き倒し劇となりましたが、これは言うまでもなく大砂嵐のそれとは対極にあるものです。

つまりは事故なわけで、なぜその事故が起きたかといえば、今場所の豊響の立合出足は鈍く、照ノ富士との押し合いにバランスを崩して堪えたことによってもたらされた低い姿勢から突き手を繰り出したから。
要するに今場所の豊響は足腰の状態があまりよろしくないのでしょう。

が、あの突き倒しが相手力士の脳裏に焼き付くでしょうから警戒感を強くするでしょうし、当人も気を良くしていることも加わって、意外と良い方向に向かうかもしれません。贔屓としてはそれを願ってます。


蒼国来は特筆しておくべきでしょうね。

先場所は増量した体が若干もてあまし気味で、終盤はバテた感じもありましたが、今場所は体重そのままで体が引き締まっており、その力強さは別人のようにさえ思えるほどです。

元より立合の前さばきは上手いのですが、そこからの展開がこれまでの下手相撲ではなく、四つに組んでの寄り切るという王道な相撲。これを見事に取りきってます。こう言っては蒼国来に失礼かもしれませんが、大関でも狙ってるの?と茶化したくなるくらい正攻法かつ堅実な相撲なのですよ。

四日目の雅牙丸戦など圧巻で、立合の呼吸が乱れて雅牙丸が「待った」と思ったかもしれないことを差し引いても、え?両差しはいいけどそんな深いとこ取っちゃうの?と言いたくなる両下手で200kgを真正面から寄り切りましたからね。土俵際では雅牙丸の体が浮きましたもん。すごいの見ちゃったw

自身最高位の今場所はまだ3勝2敗と五分の状況ですが、私の中では早くも勝ち越しに当確を打ってます。


鶴龍、日馬富士、豪栄道、嘉風、松鳳山、照ノ富士、千代丸あたりにも言及したかったのですが、時間が無くなってきたので、このへんにしておきます。いつもいつも尻切れトンボのまとまらずでスイマセン。

では、名古屋場所中盤戦も大いに楽しみましょう。




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Comments (2)

  1. 相撲評論家

    今場所、なかなか…つまらないですね。
    5日目はまあまあでしたけど、おもしろかったかというとそうは言えず…

    大砂嵐のかち上げは、美的側面についてはおいときますけど、私は特段問題視していません。禁手にするには、相手に甚だしい苦痛を与えるという大前提があるのは当然なんですけど、防禦可能性と偶然性とを考慮に入れる必要があるはずで、かち上げは一般に防禦可能性が高いですから、対技術の問題に落ちてしまいます。

    前場所はこのへんから急激に相撲内容が良くなったんですが、あれは奇跡に近いでしょうし、今場所は滑り出しのレベルが低すぎますから、期待薄ですかねぇ。

    白鵬は救いようがないという感じですかね。彼にこそつける薬がないし、それを放置している方にもつける薬がない。

    Reply
    1. 甚之介 (Post author)

      今場所……心動かされるような相撲は未だ出現せず。強いて挙げるなら嘉風-日馬富士でしょうか。

      相撲評論家様の仰る「かち上げは一般に防禦可能性が高いですから」という部分を、鶴竜はともかく日馬富士が見せてくれたのですけれども、2つもの金星を気前よく大砂嵐に与えてしまったところに落胆の色が隠せません。こんなんで今場所、どうなってしまうのでしょう。困ったものです。

      白鵬の不作法ですけど、審判部長が(全体に向けてですけどw)「汗を拭け」と通達を出したそうですね。次は懸賞の受け取り方でしょうか。まー、みっともない方法ではありますが、一応は協会側がアクションを起こし始めたことに注目したいと思います。

      Reply

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