充実した気勢とは?

まず、全日本剣道連盟剣道試合審判規則の第12条をご参照頂きたいのですが、

第12条
有効打突は、充実した気勢、適正な姿勢をもって、竹刀の打突部で打突部位を刃筋正しく打突し、残心あるものとする。

全日本剣道連盟剣道試合・審判規則より引用~

上記のとおり、有効打突=1本と判定することの条件として充実した気勢の伴う打突であることが定められております。
さて、この充実した気勢とは具体的に何を指す言葉なのでしょうか?

大辞泉(goo辞書)によりますと、

き-せい【気勢】
何かしようと意気込んでいる気持ち。盛んな意気。

とありますから、試合審判規則第12条における充実した気勢とは「打突しようと意気込んでいる気持ち。盛んな意気。」ということになります。
しかし「気持ち」も「意気」も本来は内面的なものですよね。それを審判という第三者がどのような外形から判定しているのか? ということを選手は知らなければなりませんし、審判員もきっちり認識しておく必要があります。


打突のための気勢の充実を量る外形その1【気合】

まー、気勢の充実を示す最も手っ取り早い方法が気合、つまりは発声。
「ヤー!」と攻めて「メーン!」あるいは「コテー!」「ドー!」「ツキー!」などと打突部位を叫ぶ大音声のこと。

気勢を欠いた状態で、攻めや打突に気合を載せることは不可能ですよね。
それを逆説的に捉えれば、気合を載せた攻めと打突は「充実した気勢」を最も雄弁に示す外形であるということですから、審判はまず気合の有無をもって「充実した気勢」を量ってます。

少し話を脱線させますが、剣道をよくご存じではない方から「メンを打つのに『コテー!』と言ったら1本にならないの?」みたいなことを聞かれることがありますけれども、打突する際に打突部位を言わなければならないという試合審判規則はありません。

しかし、「コテー!」という発声で面を打った場合「コテを打とうとしたら偶然メンに当たった。つまりメンを打つための気勢を欠いている。」として1本と認めないとする判定もあり得ます。

まー、そもそも打突部位と異なる気合を載せたところで打突と気合は同時ですからフェイントにさえならないわけで、そんな無意味なことは誰もやらないというのが実情ですけどね。A^^;

なお、「後載せの気合」に旗が上がらないのは上記と同じ理由によるものです。つまり「偶然に当った打突に気合を載せただけであり、気勢に欠けている。」ということです。


打突のための気勢の充実を量る外形その2【攻めによる崩れ】

発声という意味での気合が無くとも「間合いを詰める」「剣先を制する」「打突気配を醸し出す」等といった”攻め”によって相手の驚懼疑惑(いわゆる四戒)を誘い、それが「守勢への転じ」「居着き」「剣先の乱れ」等といった相手の”崩れ”という外形となって現れることから、気勢の充実を量ることができます。

高段位の方が、若手がよく使う怪鳥のような耳をつんざく気合声を使うことなく「充実した気勢」を示しているのが正にこれであります。充実した気勢によって相手を制し、その証拠として相手の崩れたところを打つ、すなわち「勝って打つ」という剣理によるものです。

基本が完成していないレベル(具体的にいえば三段未満)の場合、攻めるまでもなく既に生じている相手の隙、あるいは相手の基本から外れた打突や体捌きにより生じた隙を、いかに早く見つけ、反応し、打突するかを競うばかり。すなわち「打って勝つ」という剣理なので、”攻め”による”崩れ”はハッキリとは外形に現れませんから、審判等の第三者は「充実した気勢」を気合で量るしか術がありません。


結論。充実した気勢とは、三段を取得するまでは大音声たる気合そのものを指します。
これに「相手を攻め崩すこと」が加わるのは三段取得後。

クールあるいはシャイを装って声を出さないでいては損するばかりなのですが、年々、小中学生剣士の気合が小さくなっている感があり、ちょいと心配している近頃なのです。




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Comments (2)

  1. 福原 忠

     お世話になります。私は富山剣道連盟の事務局をしている者です。

     本県の剣道段位審査会の学科審査において、有効打突について規則第12条に使われている語句の説明を求めるのですが「充実した気勢」の説明に対して、非常に多くの子供が貴ホームページをみて
     「打突しようと意気込んでいる気持ち。盛んな意気。」
    と回答します。しかしこれは本当に剣道でいう充実した気勢に対応するのでしょうか?

     打突しようと意気込む、というのは、決して「充実した気勢」を表す内容とは思えません。貴ホームページでも、辞書の説明をそのまま引用するとこうだが・・・という論調なので、これを持って正しい充実した気勢の説明とはみなしていないようにとれます。しかし子供にはそのようなことは通じず、活字で書かれていることは正しい事であると判断し、それを解答にそのまま書いてきます。

     全剣連の「剣道学科審査の問題例と解答例」では、充実した気勢の説明として
     「気力が充実して、相手を圧倒する気勢がある」
    とあります。こちらの方がストレートでよい説明に感じます。そこでお願いですが、貴ホームページは多くの子供に誤解を与えている、ということをご理解いただき、できれば冒頭に
      全剣連の学会解答例では「気力が充実して、・・」
    などとして、子供たちに正しい内容が伝わる構成にしていただけないでしょうか?

     本来、個人のホームページである以上、このようなことをお願いするのは失礼にあたるということは重々承知ですが、貴ホームページが子供たちに剣道について不正確な内容を伝えている、ということは事実であり、剣道人としてご理解、ご一考をいただければと存じます。

     何卒よろしくお願い致します。

    福原 忠 (富山県剣道連盟)

    Reply
  2. 甚之介 (Post author)

    福原様、コメントありがとうございます。
     
    福原様のコメントにも示されておりますとおり「辞書の説明をそのまま引用するとこうだが・・・という論調」で導入部に言葉の説明として述べておりますが、当記事の主旨は「充実した気勢」がいかに外形に表れ、それを示すためにはどうすべきか?であります。
     
    さて、貴県の剣道段位審査会の学科審査に当記事をそのまま引用される子供が多いとのことですが、Googleで「充実した気勢」で検索すると当記事が筆頭に表れるためだと思います。
     
    ご提案のように当記事を修正することにやぶさかではありませんが、これはネットリテラシーの問題であり、当記事を修正したとしても、それで成功体験を得てしまったら、インターネット上の個人ブログをそのまま信用してしまう子供が育つのみで、かえって宜しくないと考えます。
     
    個人ブログを運営している私が言うのも変ですが、個人ブログの直接引用は誤りの元であり、百科事典の体裁を整えているWikipediaでさえ鵜呑みにしてはいけないということ、原典を確認する必要があるということを知る必要があるでしょう。
     
    当記事よりもアクセス数のある「充実した気勢」をタイトルとする別記事がUPされない限りは、今後もGoogle検索すれば当記事がヒットすることと思いますが、福原様と私のやり取りを残すことによって、完全ではないでしょうが、学科試験への直接引用が無くなることを祈ります。

    Reply

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